• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

日本人が「イタリア最高のソムリエ」になった真因

「よそ者」だから描けた「ワイン鳥瞰マップ」

  • 安西 洋之,中林 鉄太郎

バックナンバー

2011年6月8日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 キッコーマンの醤油松嶋啓介氏のフランス料理と続いた食の特集は、今回で3回目となる。

 料理は言葉、風土、歴史の3つの要素で成立し、それぞれの地方における素材の活かし方が鍵になっている。つまり、ロジックの理解が重要であり、たとえば、中国人の握る寿司は見せ方がわかりやすく、日本の寿司ビジネスも学ぶべき点がある。ただ、見せ方が難しい部分を言葉で説明していく労を惜しんではいけないことも事実だ。そういうことを前回、フランス料理のシェフ、松嶋氏が語ってくれた。

 食特集の最終回は、このことを別のアングルから見ていきたい。ソムリエだ。

 ソムリエと聞いて、どういうイメージをお持ちだろうか。レストランでテーブルの脇に立ち、客にワインリストを見せながらアドバイスをする姿か。あるいは、ボトルを開けてコルクの匂いを嗅ぐ場面を思い浮かべる人もいるだろう。もちろん、客のテスティング結果に耳を傾けるシーンもある。これらが、ソムリエに対する一般的な理解だと思う。

 しかし、現実には、こうした場面は彼らの仕事のごく一部と言っていい。ワインリストの構想を練ったり、それに合わせてワイナリーを訪ね歩き、テスティングを続けていく。極めてクリエイティブな仕事である。ある意味で、シェフ以上に土地の文脈にはまりきらなければ務まらない。となると、ソムリエ自身のローカリゼーションを考えてみたくなる。

 今回はイタリア最高と言えるソムリエにご登場頂く。

 林基就氏、36歳。イタリアで唯一ミシュランガイドの三ツ星を16年連続で獲得しているマントヴァにある「ダル・ペスカトーレ」のプリモソムリエ(プリモはチーフの意味)だ。そして林氏は、伊エスプレッソ社の2010年版ガイドブックで、年間最優秀ソムリエに選出された。

100の単語でワインを表現する

 ソムリエは、高級レストランで、客のテーブルに最初に立つ人となる。料理を選んでからワインを決めるが、その前に、まず食前酒と水のサービスがあるからだ。その後に料理のメニューを決めていく。「ダル・ペスカトーレ」では、水もガス入りとガスなしで、合計10種類のミネラルウォーターを揃えている。

 よって、ソムリエは客の意向をつかむ、ホールの尖兵という役割を担う。テーブルに座っている客がグルメなのか、ジャーナリストなのか、あるいは同業者なのか。あるいは、純粋に食事を楽しみに来たのか、他のレストランとの比較のために来たのか。そうしたことまで会話や仕草から判断する。そして、食後酒まで付き合う。つまり、最初から最後まで客と接する立場にあるのだ。

 日本ではソムリエのイメージがやや歪曲されている気がする。たとえば、ソムリエとはワインを詩的に表現する職業だと信じている人がいる。それは正しい理解ではない。ソムリエの仕事は、ワインをきらびやかな形容詞や装飾語で表現することではない。

 そこでまず林氏に、ワインを表現するために必要な単語数を聞いてみた。

 「香りで70程度。色で30ぐらいの単語を使っていると思います。色で言えば、白で15、赤で15というように。それにスプマンテ(発泡ワイン)であれば、泡のきめ細かさとか、泡の数を表現しますから、これが15ほどの単語を必要とします。これは、世界共通で、ソムリエが使用する単語数です」

 意外に少ないと思われたのではないか。これで、ソムリエの役割が何であるか、逆によく分かる。イタリアで生まれ育ったわけではない日本人が、イタリアワインのソムリエの頂点に立てる背景が浮かび上がってくる。100を少し超えるポイントを基準に、テスティングする能力と判断力こそが求められているのだ。

客の求めている味との距離を知る

 イタリア人の味覚や嗅覚が身についているのだろうか、という素人としての疑問が沸いてくる。

 アルコールは味ではなく、香りに左右されることが多いと言われる。香りがよければ、味がそこそこでも、楽しむことができる。嗅覚のほうが味覚より記憶に残りやすい。ウィスキーやコニャックなど、アルコール度数が高いカテゴリーは、その象徴である。ビールでさえ、飲んだ後に鼻に漂ってくるガスの香りが重要だ。そのためには、適切な温度で飲んでもらわなければならない。

 その嗅覚だが、林氏はイタリアでソムリエの勉強をしている時、香りに関する違いをイタリア人との間に感じたという。レモンひとつとって、彼が20数年間、日本で経験してきた香りと、イタリア人の語るレモンの間にはギャップがあった。同じというわけにはいかない。だが、心配することはない。イタリア人と同じ嗅覚である必要は全くないと言う。

 「サービス業にとって必要なのは、お客様が何を望んでいるかを理解することです。どんな香りと味であれば喜んでいただけるのかが、自分自身の嗅覚と味覚との距離感で察することができる。それが大切なのです」

 ローカリゼーションのエッセンスが、林氏の口からそのまま語られた。ローカライズの作業をする人は、当たり前だが、現地の人間ではないから、相手の心中を慮って思いを巡らすわけである。しかしながら、漠然と悩んでいても仕方ない。何が分かれば相手の求めるものを見抜けるのか、そのための「アイテム」と「自分との距離感」である。この2つを冷静に見つめることで、やるべきことの方向性が見えてくる。

コメント1

「新ローカリゼーションマップ」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

意外なことに、伝統的な観光地が 訪日客の誘致に失敗するケースも 少なからず存在する。

高坂 晶子 日本総合研究所調査部主任研究員