「統計学者吉田耕作教授の統計学的思考術」

確率論的に「想定外」を「想定」して対策を取る

日本人はリスクへの感覚をもっと養うべき

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2011年6月16日(木)

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 東日本大震災やその直後の大津波そして福島第1原発の事故に関して、想定外という言葉をよく聞く。確かに、地震や津波は記録破りの大きさで、被害も史上最大または最大級に達するようである。しかしながら、それだからと言って、すべての原発を直ちに廃炉にするわけにはいかない現在、想定外というひとくくりの言葉で放免することはできない。想定外を想定し、最悪時の対策を講じることが肝要である。企業の危機管理においても同様のことが言える。

電源喪失は回避できたのではないか

 今回の事故では、電源が失われた事が事故の規模を大きくした最大の要因であったように思われる。福島第1原発の場合、高さ14メートル以上の津波に襲われたため、非常用のディーゼル発電機13台のうち12台が停止し、炉心の冷却機能が失われた。想定していた津波の高さは5.7メートルであった。これは、津波は常に想定内の高さであり、何らかの理由で電源が機能しない時は非常電源で十分間にあうという考え方である。

 問題なのは想定外の高さの津波が来たときには、非常用ディゼール発電機も水浸しになり機能しなくなるという考慮が欠如していたことである。少し統計的な表現をするならば、想定外の津波が起きた時、という条件を付けた場合、このディゼール発電機が機能しないという確率は極めて高く、1に近い。想定外の津波が起きた時は、ほとんど毎回、このディゼール発電機は機能しないであろう。つまり、非常用と呼ばれる発電機が、非常の時に機能しないという事である。しかも13台の発電機が並べて置いてあれば、一つだめになる時は他のものも全部だめになる確率が非常に高い。

 米国原子力規制委員会では福島第1原発と同型の原子炉について、1981年から82年にすべての電源が失われた場合のシミュレーションを実施し、これに対策を講じていたが、日本では長期間の全電源喪失を考慮する必要はないとされていたようだ。しかし、外部からの送電も鉄塔が倒れて止まり、非常用の発電機が動かず、停電状態になった。緊急炉心冷却装置など何重もの安全装置が働かず、制御できない状態になった。何重もの安全装置が備えてあっても、個々の装置が失敗する確率が相互に独立していなければ、皆同時に失敗する可能性が高くなる可能性がある。

 すべての電源が喪失する中、原子炉を冷却するための海水をくみ上げるポンプが機能しなくなった。ポンプが機能するためには電源ばかりではなく、ポンプが水没しない事や防水性が求められる。

 これらの状況から考えられることは、装置や設備が分散されており、お互いの独立性が維持されていたならば、最悪の事態は避けられたのではないかという事である。原発用の発電機が小高い丘の上に分散されていたり、大型の電源車が原子炉と別の場所に保管されていたりしたならば、すべてが同時に失われる確率は極めて低かったはずである。いずれにしても、全電源喪失という想定外を想定しなかったのは確かのようだ。

確率の考え方

 ここで少々確率論的にこの問題を考えてみよう。まずいくつかの状況を定義することからはじめよう。東海地震がこれから30年間に起きる確率は87%という事であるから、概算的に90%とし、この地域にある原子力発電所を例とする。そこで次のような定義とする。

想定外の地震・津波が起きる事象をAとし、
その事象が起きる確率をP(A)で表す。
想定外の地震・津波が起きない事象をBとし、
その事象が起きる確率をP(B)で表す。
電源が機能し続ける事象をCとし、
その事象が起きる確率をP(C)とする。
電源が機能しなくなる事象をDとし、
その事象が起きる確率をP(D)とする。

 P(C | A)は、事象A(想定外の地震・津波が起きた)という条件つきの時、電源が機能し続けるという事象(C)が起きる確率を表す。この場合、想定外の地震・津波が起きたわけだから、電源がすべて原子力発電所の敷地内にあれば、当然これらの電源も機能しなくなる確率が非常に高くなるであろう。つまり機能し続ける確率は非常に低くなる。ここではその確率を0とみなす。そうすると、P(A)P(C | A)=(0.9)(0.00)=0.00となり、従って、想定外の地震・津波が起きて、しかも電源が機能し続ける確率は0である。つまりほとんど起こりえない事である。これは図1で言うと第一枝の点Cに当たる。想定外の地震・津波が起きる確率は0.9で、この時、電源が機能し続ける確率が0ならば、残りは全部電源が機能しない確率になるので、0.9のうち、電源が全部機能しない場合になる。従って、想定外の地震・津波が起きて電源が機能しなくなる確率はP(A)P(D | A)=(0.9)(1.00)=0.90となる。これは第2枝の点Dに当たる。

 図の下半分の方ではこの30年間で想定外の地震・津波が起きない確率P(B)は0.10、つまり想定外の地震が起きない確率は10%程あるのである。その時、電源が機能し続けるのは当然のことなのでP(C | B)=1.00となり、電源が機能し続ける確率は100%となる。
従って、P(B)P(C | B)=(0.10)(1.00)=0.10となる。これは取りも直さず、想定外の地震・津波が起きない時に電源が機能しなくなる確率はP(B)P(D | B)=(0.10)(0)=0であり、想定外の地震・津波が起きなくて、電源が機能しなくなる確率は0となり、起こりえない事とみなされる。

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著者プロフィール

吉田 耕作(よしだ・こうさく)

カリフォルニア州立大学名誉教授、ジョイ・オブ・ワーク推進協会理事長。経営学博士。1938年東京生まれ。1962年早稲田大学商学部卒業。68年モンタナ大学で修士号(ファイナンス)を取得。75年ニューヨーク大学でデミング博士、モルゲンシュタイン博士に学び、博士号(統計学)を取得。75年からカリフォルニア州立大学で教鞭をとる。99年青山学院大学国際政治経済学部教授。2001年から2007年まで同大学院国際マネジメント研究科教授。86年から93年まで、デミング4日間セミナー「質と生産性と競争力」でデミング博士の助手を務めた。統計的な考え方をベースとして、米国連邦政府、ヒューズ航空機、メキシコ石油公社、NTTコムウエア、NTTデータ、NECなどを指導。著書に『国際競争力の再生』『経営のための直感的統計学』、『直感的統計学』、『ジョイ・オブ・ワーク――組織再生のマネジメント』、『統計的思考による経営 』など



このコラムについて

統計学者吉田耕作教授の統計学的思考術

「統計学」と聞くと、難しい数式とグラフを思い浮かべ、抵抗感を持っている人が多いでしょう。とくに文科系の人であればその思いは強いはず。でも、一度、統計学の視点で世の中を見渡してみると、物事は大きく違って見えてきます。数学が苦手だった人でも吉田教授の“講義”なら大丈夫。難しいことはありません。経営とビジネス、そして人生に役立つ統計学です。

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