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変えようとするな、進化させよ

第6回 組織と組織力(その3)~組織の慣性と変革へのアプローチ

2011年6月21日(火)

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「敵よりも大いなる兵力を集結して敵を圧倒撃滅するというのは、古今東西を通じ常勝将軍といわれるものが確立し実行してきた鉄則であった。日本の織田信長も、若いころの桶狭間の奇襲の場合は例外とし、その後はすべて右の方法である。信長の凄味はそういうことであろう。…日本軍は、日露戦争の段階では、せっぱつまって立ち上がった桶狭間的状況の戦いであり、児玉の苦心もそこにあり、つねに寡を持って衆をやぶることに腐心した。が、その後の日本陸軍の歴代首脳がいかに無能であったかということは、この日露戦争という全体が「桶狭間」的宿命にあった戦いで勝利を得たことを先例としてしまったことである。陸軍の崩壊まで日本陸軍は桶狭間式で終始した」 

(司馬遼太郎『坂の上の雲』)

組織の慣性

 前回前々回は組織構造、および組織のルールを考えました。そして、ルールが、いったん決まるとなかなか変わらず、それを墨守するために、「老いた官僚制」が生まれ、非効率がはびこったり、目的もない作業に追われることになります。組織論ではこうした傾向を組織の慣性(inertia)と呼びます。

 組織の慣性は悪いことばかりではありません。慣性がある、つまりルールがしっかりしているからこそ、初めて組織に入った人も手続きなどを素早く覚えることができます。取引先や顧客だってそうです。ルールやマニュアルがあると知っているから、この会社、このお店に入ればこういうものが出てきて、サービスのレベルは大体これくらいだとわかるのです。その意味で、組織の慣性は組織に安定性をもたらし、顧客や取引業者にとって信頼性を提供してくれるのです。ですから、前回に少し戻ってしまいますが、「弾力的運用」というのは実は一番たちが悪いのです。ルールの信頼性を失わせるからです。「要請」「勧告」などというあいまいな「察せよ」を乱発する限り、組織の力は決して上がりません。

 しかし、すでにみたように、組織のルールは老化します。つまり、本来、何か目的があってルールが作られるのですが、いつの間にかルールはそれ自身の生命を持ち、組織の中で生き続けるのです。私の周りでは誰一人として評価する人のいない「個人情報保護法」が未だに廃止されずに残っているようにです。

「believing is seeing」

 組織の慣性と関係して硬直化するのは、実は組織のルール、手続き面だけではありません。それはトップや社員の考え方といってもいいですし、組織文化と いってもいいのですが、要は「ものの見方」もまた硬直化するのです。当社は〇〇でなくてはならない、この事業はこういうものだ、という「暗黙の前提」から 始まり、「そんなことはこれまでしたことがない」などという前例主義がはびこることになります。過去の成功体験にこだわり、何でもかんでも自分のやり方を 押し付ける上司も、同じです(ご興味のある方は拙著『その前提が間違いです』またはその改訂版『組織を脅かすあやしい「常識」』をご覧ください)。

 百聞は一見にしかずを英訳すると「seeing is believing」となりますが、実は人間は「believing is seeing」の生き物なのです(第2回に登場したカール・ワイク教授の言葉です)。それが端的に出るのは「第一印象」です。人間の本質なんて、たった数分の第一印象で分かるわけはないのです。しかし、「第一印象」はその人の頭に「believing」として残ります。結果として、その後の会話、行動などすべて「believing」と整合性のあるようなものを見、整合性のある解釈をするのです。

 人付き合いが良くて朗らかだと思い込んでいた隣人が、実は殺人鬼だと知った時、あなたのその隣人に対する評価は「明るい人」「一人暮らしで朗らかな人」から「確かに時々目つきが怖かった」「いつも一人でいた」などと急に変わるはずです。原発問題に関しても、巨大津波の想定はあったにもかかわらず、東京電力がそれを無視してきたことが指摘されていますし、さらにさかのぼって太平洋戦争の大本営情報部では、それまでのソ連、支那への思い込みが強く、戦争をしている相手である英米の担当課ができたのが開戦後半年経ってからだったといわれています。正しい情報に基づいて判断を下すのは当然のことなのですが、そもそもそうした予断によってとるべき情報を取らず、あるいはせっかくある情報を活かすことができなければ、だれが決定者であっても悲惨な結果は目に見えています。

 これと関連して言えば、「仮説思考」にも気を付ける必要があります。仮説は問題解決の道筋をつけるのに大変重要ですが、一方で仮説を溺愛してはなりません。仮説は往々にして、「believing」になります。自分が仮説を持ったとき、それが「基準」になり、無意識にその仮説が正しいことを証明する情報ばかりを集めてしまうのです。「自分で先に絵を描いておいて、絵の通りにならないと、これはウソだと考える、こういうのは、学校出の人に案外多いようです」とは西堀栄三郎氏の耳の痛い指摘です。

組織においては、ルールだけでなく、モノの見方も硬直化しがちである(「believing is seeing」)。

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「変えようとするな、進化させよ」の著者

清水 勝彦

清水 勝彦(しみず・かつひこ)

慶應義塾大学大学院教授

東京大学法学部卒業。ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D)。戦略系コンサルティング会社のコーポレィトディレクションを経て研究者に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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