「究極のサービス」

「本業を社会貢献にする!」〜絶好調クリーニング店の大転換

震災に負けない人々(5)中畠信一・喜久屋社長

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2011年6月7日(火)

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 クリーニング店を多店舗展開する喜久屋は、経営理念に「喜久屋で善かった」を掲げる。客も、従業員も、取引業者も、さらに地域も、喜久屋と関係して善かったと感じてもらえるように事業を進めるということだ。

 これまでも、サービス生産性向上に努め、店舗や洗濯工場の仕組みを改革してきた。その結果、洗濯工場の作業を平準化して、そこで働く従業員の安定雇用だけでなく、取引業者から、洗濯に必要な材料を安定的に仕入れるようにした。さらに、作業が平準化されたことで、夜遅くまで工場が操業することもなくなり、地域住民にとっても騒音などの問題がなくなり、地元にとってもよい企業となっている。

 この喜久屋も、他の企業と同じように、地震の被害にあった。そして、売り上げを大きく落とした。しかし、この地震後の逆境を冷静に見て、「社会への貢献を通じて自己実現したい」という人間の本質を見いだしたのである。その結果、事業の優先順位が入れ替わった。クリーニングから保管業へと事業形態が移ってきた喜久屋が、これから環境サービスへと進んでいこうとしている。

 今回は、喜久屋の中畠信一社長に、震災の中で何を見たのか、これから事業をどのように展開していくのか、21世紀における企業のあるべき姿について聞いた。

内藤 地震の直接の影響はありましたか?

「自宅待機」で洗濯需要が激減

中畠 3月11日は、足立区にあるこの本社事務所にいました。

 「大きくならずに、このままおさまってくれ」。東海地震のイメージがあって、瞬間的にそう思ってしまいました。なぜか昔から、習慣としてそう念じてしまいます。

 ただ、今回の揺れはあまりにも大きく、途中からこれまでの感覚とは違うと感じましたね。揺れの最中、事務所にある書棚の上の扇風機が落ちてこないよう、とっさに手で押さえました。ただ、書棚の中身は飛び出してきましたが。

 洗濯工場を5カ所に持っていますが、ガラスが数枚割れた程度の被害で済みました。洗濯機や乾燥機などの機械も、工場の基礎にアンカーをしっかり打っていたので、揺れで倒れることはありませんでした。配管が壊れることもありませんでした。コストはかけましたが、事前に機械をきちんと固定していたことが効いたと思います。

 だから、事務所や工場で、けが人が出ていません。直接の被害は軽微でした。

 情報を十分に持っていませんが、被災地やその近辺の同業者は、地震で機械もやられ、配管がグニャグニャに壊れたところがあると聞いています。この直接的な被害を被った会社は、しばらく操業できなくて大変です。

 ガソリン不足の影響は、うちもありました。ただ、これまで同じ業者と長く取り引きして、信頼関係が構築されていたので、ガソリンを手に入れることができました。そして、毎日、何とか商品を工場から各店舗へ配送することができました。

 ガソリン不足は深刻でしたが、一方、工場で使う洗濯用の石油系溶剤は問題なく入手できました。工場を動かす重油も入ってきました。そのほかの材料も、安定的に手に入りましたね。

 しかし、一番大変だったのは、お客様が地震直後に減ってしまったことです。経済的な被害を受けました。それも、地震の影響があった、うちのような東日本の会社だけではありません。地震と関係ない沖縄のクリーニング業者まで、売り上げがダウンしたようです。今年3月は、多くのクリーニング店が、平均して売上高が前年同月比で50〜60%の水準になったと聞いています。

 喜久屋の売上高は、前年同月比で増え続け、地震直前の2月で105%と好調だったんです。それでも、3月の売上高は75%のレベルまで落ちてしまいました。しかし、その後はお客様が戻ってきてくれて、4月に入って売上は110%の水準になりました。

 理由は単純です。地震があった3月11日が金曜日で、一番忙しくなるはずの週末のお客様が消えてしまったということです。その後も混乱が続き、多くの企業で自宅待機や自宅勤務になり、会社勤めの人がワイシャツやスーツをしばらく着なくなりました。だから都心の店舗ほどガラガラでした。喜久屋は都心に多く出店しているので、こうした影響が大きかったと感じています。

 店舗の影響は甚大でしたが、2003年から始めた、クリーニング後にそのまま衣服を保管する「eクローゼット」のサービスは影響を受けていません。むしろ利用は昨年よりも多いくらいです。現時点では昨年対比で115%の水準にあります。リーマンショックの時も店舗は大きな影響を受けましたが、実はその時も、このeクローゼットは影響を受けませんでした。

 店舗はクリーニングのサービスを提供し、eクローゼットはクリーニングに保管のサービスを加えています。おそらく、地震でぐちゃぐちゃになった部屋の片づけをやらなければならず、衣替えの季節とも重なって、需要がむしろ増えたのかもしれません。

 クリーニング需要は、業界として落ち続けています。しかし、eクローゼットは反比例しています。この厳しい時期に、改めて新しい価値を作っていくことに自信を深めました。

内藤 この地震で結果的に学んだことはありますか?

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著者プロフィール

内藤 耕(ないとう・こう)

工学博士、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センター副センター長。サービス産業生産性協議会業務革新フォーラム推進委員会委員、日本小売業協会流通業サービス生産性研究会コーディネーター等を務める。主な著書に、『サービス工学入門』(編著、東京大学出版会)、『江戸・キューバに学ぶ“真”の持続型社会:資源制約を環境サービスで乗り越えろ!』(共著、日刊工業新聞社)、『サービス産業進化論』(共著、生産性出版)、『サービス産業生産性向上入門−実例でよくわかる!』(日刊工業新聞社)、『「最強のサービス」の教科書』(講談社)など。



このコラムについて

究極のサービス

 客も驚く「究極のサービス」を求めて全国を歩く著者。日本各地で見た「至極のおもてなし」を詳細にリポートし、さらにそのバックヤードに潜入する。そこにはサービスを支える驚愕の仕組みがあった。
 工学博士でもある著者は、サービスという数値化しにくい「商品」を、理論的・体系的に捉え、サービス企業の未来像を明確に描き出していく。
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