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放射能ストレスで前進する女と、立ち止まる男

1歩を踏み出せば、異なる風景が見えてくる

2011年6月16日(木)

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 目に見えない恐怖への“不安”が、未知なる将来への “決断”へと変わり始めた。母親たちが、「我が子」を守るために、家も、仕事も捨てて、新たな生活へと動き始めたという。

 「妻は仕事を辞めて引っ越そうと言い出した。僕の実家の近くに引っ越して、そこで新しい仕事を見つけてほしいと言うんです。今からあの田舎に帰って何をするって言うのか。我が家は家庭崩壊寸前です」

 以前、子供を持つ家庭、とりわけ母親の放射能に対する不安が大きいことはこのコラムでも取り上げた(関連記事:放射能という“目に見えない恐怖”がもたらすストレスの脅威)。この男性の妻も放射能に当初から大きな不安を抱いていたという。それは、夫の目から見れば、過剰に思えたそうだ。

 東京電力の福島第1原子力発電所の事故以来、週末だけは夫の実家のある中国地方に子供と出かけ、思う存分に外で遊ばせてきた。しかし今、「このままここ(東京郊外)に住み続けるのは危険」と思い立った妻が、生活の基盤をすべて中国地方に移そうと言い始めた。

 先述のコラムを書いて以来、「あの大手商社マンの家庭とうちとは全く同じ」というものだけなく、「西日本の支店に異動願いを出している」「妻と子供だけ、大阪に避難している」といった話をいろいろなところで耳にした。

 その中には、既に夫婦で仕事を辞め、引っ越しをした方もいた。家庭内の“出来事”なので、他人に話していない人も多い。放射能への恐怖は、終息に向かうというよりも、時間の経過とともに高まっているようにさえ思える。そもそもいつ終わるかも分からないし、今になって「ウソ!」と叫びたくなるような話が次々と出てきているのだ。

報道だけでなく口コミ情報でも不安が増幅

 メルトダウン(炉心溶融)が起こっていた、とか、「SPEEDI(スピーディ=放射性物質の拡散予測システム)」の計算結果が公開されていなかったとか、4月末に内閣参与を自ら辞任した小佐古敏荘氏(東京大学教授)が、「国の放射能の基準値は低すぎる」と指摘していたとか、まるで日替わりメニューのように報道される新事実。

 放射能楽観派の人たちだって、「マジ? 大丈夫なのかな?」と心配になるのだから、悲観派の方たちの不安感といったら、とてつもなく大きいものに違いない。加えて、文部科学省の子供の被曝線量への対応にも一貫性がない。子供を持つ母親たちの混乱は最高潮に達しているのだろう。

 おまけにいわゆるママ友たちの間には、さまざまな情報が錯綜している。

 「(プロテニスプレーヤーの)シャラポワの両親がアメリカへの移住を決断したのは、チェルノブイリ事故だったそうよ」といったテレビや雑誌の情報……。

 「○○さんのご主人の話では、報道できないくらいとんでもないことが起こっているって」
 「○○さんのご主人って、あの××新聞の記者さんよね?」
 「確か政治部だった」
 「そう。だから奥さんだけ子供を連れて宮崎県の実家に戻るんですって」
 「うちも主人と相談してみようかしら」
 といった“ウワサ”などなど。

 情報が増えれば触れるほど、「取り残されないようにしなきゃ」と焦るママたちも少なくないという。

 そもそも人間は、何らかのストレスフルな環境にさらされると、そのストレスをどうにかしようと反作用を起こす動物である。自分が生き延びるために行動を取るのだ。そして、そこに“大切な人”がいた時、自分でも驚くような決断をしたり行動に出たりしてしまうことがある。

 今になって出てくるさまざまな事実や口コミ情報に、「どうにかしなきゃ」という気持ちが強まり、「だったら動くしかない」と、子供を守るために、生き方を変える決断を母親たちは始めたのだろう。

 そんな妻の決断に、少しばかりたじろいでいる夫たち(もちろんその逆もあるのだろうけど)──。たとえ「子供のため」とはいえ、自分の積み重ねてきたものを捨てるのだから、誰だって躊躇する。変わるのはそうそう簡単なことではないのだ。

 まぁ、冒頭の男性のような、ある意味、究極の選択を強いられる境遇に追い込まれている方がどれだけいるかは定かではない。しかしながら、震災や原発事故をきっかけに仕事へのかかわり方を見つめ直している人も多い。

 そこで今回は、「変える=チェンジ」ということについて、考えてみようと思う。

コメント84件コメント/レビュー

行こうか行くまいか迷うということは、行った先に今いる場所に勝るとも劣らない魅力を感じているということ。今いる場所よりもはるかに魅力あるなら迷わずそこへ行くだろうし、反対に、まったく魅力を感じないのなら迷わず行かない。A(現在地に留まる)・B(新天地へ赴く)どちらか一方を選ぶにあたって、明らかに優劣がつけられる場合に迷いは生じないはずだ。両者を見比べて、いずれにも甲乙つけがたいから迷うのだろう。迷ったときは自分の気持ちに正直に生きればよい。そこで選んだ道を信じて進むだけだ。何を大切に生きるのか、それだけ胸に刻んでいればよいではないか。と、私は読みました。(2011/06/22)

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「放射能ストレスで前進する女と、立ち止まる男」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

行こうか行くまいか迷うということは、行った先に今いる場所に勝るとも劣らない魅力を感じているということ。今いる場所よりもはるかに魅力あるなら迷わずそこへ行くだろうし、反対に、まったく魅力を感じないのなら迷わず行かない。A(現在地に留まる)・B(新天地へ赴く)どちらか一方を選ぶにあたって、明らかに優劣がつけられる場合に迷いは生じないはずだ。両者を見比べて、いずれにも甲乙つけがたいから迷うのだろう。迷ったときは自分の気持ちに正直に生きればよい。そこで選んだ道を信じて進むだけだ。何を大切に生きるのか、それだけ胸に刻んでいればよいではないか。と、私は読みました。(2011/06/22)

安全安全と繰り返すマスコミや、政府が正しく、心配する人間は能力が低いのではないか、と言わんばかりのコメントが目立ちますね。やはり皆さん自分が一廉の人間だと思いたいのかな?その中で秀逸で賛成だったのが、東電幹部の動向監視。年寄りが多く、放射線障害に強いのが難点ですが、とはいえ破局的兆候を真っ先につかめば逃走するに違いなく、是非マスコミ各社にはそれを伝えて欲しいものです。そんな事が起きちゃえば、彼らの存続も危ういのですから伝えても大丈夫。報復もありません。枝野さんより信用してくれていいですよ。(2011/06/21)

 私は現在妻と二人の子供と川崎に住んでいる。私の妻も原発事故後、半ば真顔で彼女の実家の在る広島への移転を何度か口にした。理由はやはり子供への影響である。母親の子供に対する思いは、表現するのは難しいが、確かに父親のそれとは違い、子供と自分が一体であるような、そんな結びつきの強さを感じる。ただ、父親の少し引いた関係も、子供の成長にはとても重要で、それらのバランスがあってこそ子育ては成り立って行くものと強く感じている。母親が何かを超越した存在で、進化している、というわけではない。子育ての観点から言えば、昨今の育メンなど、男も欧米に遅れたが進化しているではないか。 本題に戻って移転の件だが、結局妻は安心が欲しいのだ。放射線量の数値がどうでこうで、などといった情報ではなく、心底大丈夫だと思える安心が今一番必要なのだと思う。それをしっかり伝えるのが政府の責任であり、自治体の責任であり、そして何よりも夫の責任ではないか。私は被災した茨城の出身であり、故郷の人たちの前向きな姿や元気に遊ぶ子供たちを見て、大丈夫だと確信している。これを契機に進化せよ、など全く筋違いだ。(2011/06/21)

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後藤 忠治 セントラルスポーツ会長