「日本はすでに、何でも手に入れた成熟社会でしょ。でも、インドはこれから多くのものを手に入れようとしているんだ。日本の考え方じゃ、組織は回らないね」
デリーの日系企業で働いた経験があるインド人はそう語った。
日本企業では働きたくない
「日本企業は意思決定が遅い。慎重になり過ぎるんだと思うよ。フレキシビリティもないしね。製品はいいんだから、ビクビクしないで、もっとアグレッシブにビジネスを展開すればいいんだよ」
急成長国から見れば、日本企業の行動はもどかしいのだろう。もちろん、彼は日本人の長所も知っている。高い倫理観、そして生真面目な性格は、日本人の美徳だと認める。それでも、フラストレーションがたまった。
「インドでビジネスをするなら、トライ・アンド・エラーの精神でいろいろ試してみるべきだね。日本企業がうまくいかないのは、言語の問題というより、カルチャーの違いを理解していないことだと思うよ。インドに適合していないんだな」
彼の意見は、決して特異なものではない。事実、インドでは、就職先として日本企業の人気は低い。2010年に実施された「働きたい会社調査(India's Best Companies to Work For)」では、上位50社に日本企業は入っていない。NTTドコモが26%を出資するタタ・テレサービシーズが、35位に入っているが、「日本ブランド」ではない。それに比べて、米国企業はトップ10社のうち8社を占める。
インドで働きたい会社ベスト10(2010年)
| 順位 | 会社名 | 業種 | 出身国 |
|---|---|---|---|
| 1 | グーグル・インディア | 情報・通信業 | アメリカ |
| 2 | メイクマイトリップ(インド) | 旅行 | インド |
| 3 | インテル・テクノロジー・インディア | 電子機器 | アメリカ |
| 4 | マリオットホテル・インディア | ホテル | アメリカ |
| 5 | ネットアップ・インディア | 電子機器 | アメリカ |
| 6 | アメリカン・エキスプレス・インディア | 金融 | アメリカ |
| 7 | インド火力発電公社 | 電力 | インド |
| 8 | ペイパル・インディア | 電子商取引 | アメリカ |
| 9 | アジュバ・ソリューションズ・インディア | 医療分野の業務受託 | アメリカ |
| 10 | SASインスティチュート(インディア) | ソフトウェア | アメリカ |
日本企業のプレゼンスが全体として低いことを考えれば当然の結果と言えるかもしれないが、今後、より多くの優秀な人材を獲得するためには、就職先としても日系企業の魅力を上げていく必要があるだろう。
ジョブ・ストリートとエーオン・ヒューイットが実施した「アジアのホワイト・カラーが働きたい企業調査」によると、インドにおける人気ランキングでは、1位がインド企業で、米国企業と英国企業が続く。ブランド力がある韓国企業が10位に低迷しているが、日本企業も6位と振るわない。
インドをはじめとした新興国に日本企業が進出した際に、一般的に見られる事象として、現地子会社のマネジメント層を全員、日本人出向者で構成することが挙げられる。また、トップマネジメントは3年程度のローテーションで交替してしまい、そのトップの決裁権も小さい。
結果として、新興国独自の事業環境への対応ができなかったり、めまぐるしく変わる事業環境のスピードについていけない、という問題が生じている。
多くの企業で問題になることの1つに、日本が誇る製品やサービスの「品質」をどこまで新興国に持ち込むのか、ということがある。インドで、特に成長著しい中間層に対して事業を拡大していくためには、コスト競争力を確保することは必須だ。しかし、日本基準の品質を担保することを優先するとコストが下がらず、韓国企業や現地企業との競合に負けてしまう。
現地の事情に精通したマネジメント層を育て、また本社としてどこまでの権限を現地に委ねるか、新興国の品質基準をどう考えるかは大きな問題である。少なくとも、譲れるものと譲れないものを明確にしておく必要がある。
また、現地従業員がマネジメントとして登用されないことが明確になり、モチベーションが上がらないという課題もある。インドのビジネスマンは日本では想像できないほど上昇志向が強い。国全体が世界におけるプレゼンスを高めている中で、自分自身も大きく成長したいという願望は強い。
そのような意識を持つ従業員を引っ張っていくのに、3年でトップが交代していては、なかなか難しい。キャリアアップの機会が少ないことも合わせて、インドのビジネスマンにとって日本企業の魅力はなかなか上がらず、結果として離職率が高まり、優秀な人材も採用できない。
今後、インドで事業を始めようとしている企業は、どうすれば日本企業の壁を乗り越えられるのか。
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A.T.カーニー プリンシパル。米系コンサルティング会社、ベンチャー企業等を経て、A.T.カーニーに入社。全社戦略、マーケティング戦略、海外事業戦略、M&A・提携戦略を手がけている。主な産業分野は、消費財、医療機器、医薬品、金融サービス等。東京大学経済学部卒、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院経営学修士(MBA)

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