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日本の出版ビジネスには価格戦略がなかった

再販制度に守られた「被」規制産業

  • 吉本 佳生

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2011年6月29日(水)

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 電子書籍の関係で情報交換をしていて、実感したことがある。再販制度の中でずっとやってきた日本の出版業界には、価格戦略という考え方がほとんどないのだ。再販制度を前提にしてビジネスをしてきたので、仕方がないとも思うが、残念である。電子書籍について、フォーマットなどの議論は色々と行われたのに、肝心の価格戦略が議論になっていない。しかも、タイミングが悪いことに、2010年前半はクリス・アンダーソンの著書『フリー』(NHK出版)が話題になった。出版社や著者が、電子書籍と無料ビジネスの組み合わせに安易に走りがちであった。

 私は、2010年の初めごろ、何人かの編集者にこんな話を訴えた。「普通なら1冊1500円で売れそうな本にあれこれ付加価値をつけて、5000円とか1万円で売れるよう目指す著者がもっと増えるべきだ」。背景には、紙の本が資産として売買されるようになったとの意識があった(この点は前回述べた)。

価格戦略を工夫する幾つかの動き

 多くはないが、価格づけの工夫をしている出版社もある。

 先日、ある出版社の編集者と意見交換をした時に面白い話を聞いた。その出版社は数年前に、紙の本の価格について議論し、次の戦略を実践することにしたという。安い本を求める読者(30歳代を中心にした比較的若い読者)には、1000円未満の手軽な新書を買ってもらう。これまで1500円前後で売ってきた単行本は、何とか2000円以上で売れるように、新しい判型などを試す。このやり方は、今のところ比較的うまくいっているということだった。

 中古本が売買されないよう、うまく工夫をして成功している出版社もある。例えば宝島社だ。バッグなどのオマケを雑誌につけて、バッグと雑誌のどちらがオマケなのか分からないようにして売るやり方は、かなり成功しているように見える。バッグを使ってしまえば、事実上、中古での売買ができなくなる。

 とは言え、以上のような事例は少数だ。多くの出版社は、価格戦略の重要性に気づいていない。中古本売買の対策を含めた価格戦略を工夫することもなく、本の価格が低下した理由を、ブックオフやアマゾンマーケットプレイスだけに押しつけているようでは、ダメだ。紙の書籍において再販制度がなくなった時、あるいは、電子書籍の市場がもっと大きくなった時に、日本の出版ビジネスがどうなるかが不安である。

書籍と電子書籍の関係は、CDとDVDとの関係に等しい

 再販制度がある紙の書籍と再販制度の対象外である電子書籍の関係に似たものが他にもある。再販制度があるCDソフトと再販制度の対象外のDVDソフトの関係だ。映像があるかないか、両者の内容は根本的に異なる。それでも音楽に絞れば、価格が自由に変えられる音楽DVDの価格が、映像という付加価値があるにもかかわらず、音楽CDの価格より安くなってもおかしくない。DVDソフトは、発売後、時間の経過とともに値下げする価格戦略が取られているからだ。DVDソフトの値下げは、音楽CDの販売に悪影響を与えうる。

 DVDソフトと同じように、「電子書籍も、時間の経過とともに価格をだんだん値下げして売ることになる」と考えている人がいる。特に、今、話題になっている企業や商品をネタにしたビジネス書の場合、何年かすれば書かれている情報の価値が下がるから、「だんだん値下げ」に走りやすいだろう。

 問題は、だんだん値下げには副作用があって、電子書籍ではそれが大きな問題になることだ。例えば、だんだん値下げを予想して買い控える人がいるだろう。その結果、話題にならずに埋もれてしまうと、後から販売促進策を打っても売れるものではない。従って、たいていの電子書籍にとってだんだん値下げは危険である。

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