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「シュレーディンガーの猫」のリスク管理論

正しく怖がる放射能【12】

2011年7月5日(火)

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 今週の金曜日(7月8日)、東京大学で「震災、原発、そして倫理」という緊急討論会が開かれます。既にお伝えした通り、哲学の一ノ瀬正樹さんの問題設定と進行で島薗進(文学部宗教学)、中川恵一(医学部放射線科)、影浦峡(教育学部情報リテラシー)の皆さんとご一緒して、私も議論に参加する事になっています。

 その中で扱う、とりわけ基礎的な話を記したいと思います。当然ながら分かりにくい点が多いと思います。ツイッター などでもご質問を受けられますので、気軽にお問い合わせ下さい。

「ミクロな世界」と「マクロな世界」

 さて、私たちの住む世界は「自然法則」に支配されています。夢の中などは別として、現実の空間では誰もその支配を免れることはできません。

 りんごは木から落ち、磁石のN極とS極は引き合い、電流を流せば豆電球が光る。物理や化学、あるいはDNAなど生命科学の法則に私たちは従いながら生活しています。

 ところが原子や分子の世界は、ちょっと様子が違います。小さな小さな水素原子1粒を取り出し、よくよく観察してみると、同じ電気や磁気の働きが全然様変わりしているのです。ミクロな原子の振舞いは、私たちの住むマクロな世界、つまり「巨視的」な世界とは、かなり違っています。ミクロな世界の法則にしたがうと、私たちの常識とはずいぶんかけ離れたおかしなことがたくさん起こります。

 日常的に私たちが暮らしている限り、そうした「ミクロな世界」を垣間見ることはあまりありません・・・、でした。少し前までは。しかし最近はちょっと事情が変わってきました。

 例えば「レーザー」はミクロな物理法則に従う典型的な「風変わりな現象」なのですが、多くの人が見慣れてしまった観がありますね。 芸能人のコンサートから社内会議のプレゼンで使うレーザーポインター、医療のレーザーメスなどまで幅広く応用されています。

 あるいは、超伝導という言葉もしばしば一般報道で聞かれるようになりました。超伝導もまた、典型的なミクロのメカニズムに従う異常現象です。何しろ電流がいくら流れても抵抗がゼロで発熱もしない、あるいは電気が流れているくせに磁場は伝導体の中に入ってゆくことができない、などなどなど。

 あるいは、液体ヘリウムなど、超流動状態になってしまうと、へらへらとポットの壁面から這い出してきてしまいます・・・。机の上においたコップから水が勝手に這い出してきたらオカルトですが、これは物理的な事実です。

 こんな具合でミクロの世界での物質の振る舞いは、巨視的世界と全く異なります。マクロな世界を支配する物理法則は、ニュートン力学、マックスウェルの電磁気学、カルノーやボルツマンの熱統計力学などで記述され「古典物理学」と呼ばれます。これに対して、ミクロな世界のクレージーなルールは「量子物理学」の法則に従います。

 どうして今、こんな話を書いているのか。それは典型的な「クレージーなミクロの現象」である「核分裂反応」を利用する「原子力発電所」の事故が起きてしまったからにほかなりません。

「専門家」は本当に専門家か

 事故以降、さまざまな報道がなされていますが、こうしたメカニズムに踏み込んで行くものは、一部の科学誌を除いて一般メディアでは見かけません。しかし、原発事故を本質的に考えようとするなら、この根っこをすっ飛ばすことは、どうしてもできないと私は思っています。

 私がそう思う、もう1つの大きな動機は、2002年から2003年にかけて東京大学工学部システム創成学科シミュレーションコース、つまりかつての工学部原子力工学科の3年生を対象に量子物理を教えていたことにあります。

 先に結論を言ってしまうと「原子力の専門家」は必ずしも「原子核物理の専門家」ではなく、産業の枠組みを離れた放射性物質の振る舞いに対して、実はお手上げである可能性が高いと思っているからです。

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