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企業は緊急時のメンタルヘルスケアの再考を

渡辺直登・慶応義塾大学教授が指摘する課題

2011年8月5日(金)

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 東日本大震災ではサプライチェーンや物流網が寸断され、日本企業の多くは事業活動の停止を余儀なくされた。その反省から、新たに創造していくべき経営のモデルとは──。企業で経営再創造の最前線に立つ実務家の取り組みや識者の論考を通して模索していく。

 今回のテーマは、従業員のメンタルヘルスケア。地震、津波、そして原発事故によって、被災者のみならず、多くの人々が恐怖と不安に襲われた。そんな突発的な状況の下で、企業のメンタルヘルスケア対策は果たして有効に機能したのか。

 震災直後には、自分の仕事が「不要不急」と見なされて「自宅待機」を命じられるなどして不安に陥ったり、会社の姿勢や職場の雰囲気に疑問を抱いたりした人も多かった。こうしたビジネスパーソンの心の問題と企業はどう向き合っていくべきなのか。慶応義塾大学大学院経営管理研究科で組織心理学を研究する渡辺直登教授に意見を聞いた。(取材構成は、秋山基=ライター)

 初めに、最近マスコミでもよく取り上げられるPTSD(心的外傷後ストレス障害:Post Traumatic Stress Disorder)にまつわる誤解を解いておきたい。

 戦争や自然災害、大事件、大事故などの被害に遭った人の中には、「再体験」「回避症状」「過敏反応」などの症状に悩まされ、社会への再適応が難しくなる人が出てくる。

 再体験とは、恐怖を生んだ出来事が記憶の中で再生産されることで、フラッシュバックなど当時の記憶が何度もよみがえることを言う。回避症状は、あんな恐ろしいことは起きていない、きっと夢だった、だからもう触れないでおこう、などと似たような状況やそれに関する会話を避けようとする反応だ。そして、過敏反応は、ちょっとした物音や揺れなどがあると、不安からパニックを起こしてしまう症状を指す。

 こうした症状が1カ月以上続くとPTSD、それ以下だとASD(急性ストレス障害:Acute Stress Disorder)と呼ぶ。阪神・淡路大震災の時は、被災者の30~40%がASDの症状を示したと言われている。

 しかし、ASDになった人たちの大部分は立ち直る。しばらくすると自然治癒し、社会に再適応できるようになっていく。ただ、中には、ストレスの原因となった出来事から1カ月以上たっても、先のような症状が収まらない人がいる。そういう人たちがPTSDに当たる。

 つまり、東日本大震災について言うと、震災後5カ月がたとうとしている現段階でもASDの症状が続いている人は、PTSDである可能性が高い。PTSDやASDは誰でも極度のストレッサーにさらされればなり得る障害だ。

案外強い人間の回復力

 再び阪神・淡路大震災の例を挙げれば、PTSDになった人は1割程度だった。また、2001年の米同時多発テロを現場で体験した人たちのうち、PTSDになった人は、およそ35%と言われている。これらの数字を見て、多いと思うか少ないと思うかは、人それぞれだろうが、大半の人たちが回復し、普通の生活に戻れているのだから、人間の回復力は案外強いと言える。

 もっとも、PTSDになってしまうと、回復には時間を要する。数年から5年、10年と長く引きずる人も多い。そういう人たちに対しては、専門家のケアや社会的なサポートが必要だ。

 東北各地の様子を見てきた専門家の話では、東日本大震災の被災者のメンタルヘルス対策は、阪神・淡路大震災の時よりかなり改善されている。

 まず、各自治体が、精神科医や保健師やソーシャルワーカーからなるチームを編成して避難所などに送り、被災者の心理面の相談に応じている。

 また、今回の被災地はもともと地域住民同士のきずなが濃厚な地域であり、被災者同士の助け合いや支え合いが見られる。避難所での生活も、仮設住宅への入居も、できるだけ地域コミュニティーの維持に配慮する形で進められている。こうした条件や措置により、被災者がPTSDになるのをかなり抑えられているのではないかと思う。

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