• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

なぜ現場任せで、トップマネジメントが機能しなくなるのか?

加藤陽子・東京大学文学部教授に聞く【第2回】

2011年8月23日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

前回から読む)

池上:前回は、原発と戦争に対する国民の意識とメディアの姿勢について、加藤陽子先生とその共通点を探りました。原発も戦争も「負けるまで」、私たちは、消極的に、ある部分は積極的に「推進派」だったのかもしれない、ということが見えてきました。

 では、今回はなぜ戦争に負けたのか、なぜ原発は事故を起こしたのか、という点について、「庶民」とは反対側、「トップマネジメント」に焦点をあてて考えていきたいと思います。

加藤:現場の情報を正確に迅速にくみ上げて、中長期的な見通しを踏まえたうえで、瞬時に適切な判断を行う。戦争にしろ、原子力発電の運営にしろ、トップマネジメントの成否は、結果を大きく左右するでしょうね。

加藤 陽子(かとう・ようこ)
1960年、埼玉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。89年、東京大学大学院博士課程修了。山梨大学助教授、スタンフォード大学フーバー研究所訪問研究員などを経て現職。専攻は日本近現代史。本企画で紹介している以外の主な著作には『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)『戦争を読む』(勁草書房)、『昭和史裁判』(文藝春秋)、『昭和天皇と戦争の世紀』(講談社、近刊)などがある。(写真:大槻 純一、以下同)

 ところが、トップマネジメントが機能しない状況が、戦時中も今回の事故対応でもいくつもありました。

 なぜトップマネジメントが機能しないのか。
 原因のひとつに、前のめりの積極主義といった傾向があるのではないか。変な用語で恐縮ですが、どういう意味かといいますと、人間の行為について最悪最低の場合を想定して制度設計をしていないということです。上司は、部下は失敗しない、弱音をはかないものと思いたがる。一方部下も、率直に、困ったと言わない。ニューギニアなど補給が続かない場所でも、現地軍はめったなことでは大本営に対して、補給や兵站キツイとは言わない。ですから、結果的に中央は末端、現場の正確な情報を採ることができないまま、「戦局」が悪化する。このような悪循環は、戦争においても原発処理においても見られたのではないでしょうか。

 ただ、今回、福島第1原子力発電所の事故原因解明や安全規制のあり方を検討する事故調査・検証委員会の委員長に畑村洋太郎先生が就任しましたが、これはとてもいいニュースだと思います。

池上:畑村先生は、日本における「失敗学」の第一人者。事故調の会見で畑村先生は、「原因究明を優先し、責任追及はしない」とおっしゃいました。

加藤:そこはとても大切ですね。責任追及を放棄するのとは違う。失敗の原因を究明しておきさえすれば、責任追究は後でもできるわけです。とにかく、失敗した人たちに、当事者として何故その時、そのように振る舞ったのかを語っておいて貰わなければ、今後の検証として使えませんから。畑村先生の名言の一つに「失敗の原因は変わりたがる」というのがあります。責任者を裁くことが優先されますと、現場の人や当事者は、誰も傷つかないような方向で無意識に嘘をつきます。「変わりたがる」失敗要因をしっかりと掴まなければ。事故調査が上手くいくことを切に祈っています。深刻な被害状況が今後どんどん明らかになってくるはずですから。

池上:たしかに今回の原発事故で痛感するのが、さまざまな現場での細かなミスが隠蔽されたり、あるいは見過ごされたまま放置されたりしていたことが、事故の原因の一部となっている、ということです。どうしてこんなことが起きるのでしょうか?

中途半端な成果主義と勲章制度が失敗の隠蔽を助長する

加藤:注目したいのは、現場がウソをつく、失敗を隠す、ということがなぜ起きるのか、という点です。実は、中途半端な実績主義、成果主義、実績に応じて人事評価や給料が決まる制度が裏にあったからではないかと思います。いわゆる論功行賞です。

池上:実力のある人間を重用するわけですから、一見とてもよい組織ができあがる仕組みのように思えますが。実際、現代の企業の大半がなんらかのかたちでこうした成果主義を導入しています。

加藤:ただし、中途半端な成果主義は、組織の透明性が低いと、現場にとって都合の悪い事実が隠蔽されて上に伝わりにくい仕組みでもあるのではないですか。

池上:前線での戦況が芳しくないことを「正確に伝える」と責任を問われるから、ですね。責任をとりたくない、怒られたくない、できれば褒められたい、そんな意識が前線にはあったと。

加藤:まさに。前線の指導者たちのメンタリティーとしては、自らが率いる兵員に、時には死をも要求しなければならないわけですから、天皇からの高い評価が欲しかったわけです。著しい戦果を挙げた時に与えられる「感状」というものがありました。太平洋戦争の中盤からは、補給も乏しく制海権制空権も失った場所で多くの戦闘がなされました。そうしますと、前線では兵員を鼓舞するため感状が欲しい。一方軍中央でも、補給物資は出せないが、お褒めの言葉だけは出せるということで、「感状」の大盤振る舞いがなされるようになる。前線の状況が悲惨であればあるほど、「感状」が出てしまうという、本末転倒のことが起きました。

池上:会社で社長賞をもらえば出世するから、自分の営業成績を改ざんするようなものですね。

加藤:はい(笑)。それから、より価値があったのが「勅語」ですね。帝国議会の開院式などの場合も勅語が出されましたが、陸海軍軍人に対しても、ある大きな戦闘が終了した時や日中戦争の一周年のような場合に出されました。

 この勅語発出にもからくりがありました。当時、宮内省には侍従武官府という部署がありまして、天皇への軍事関係の上奏を取り次ぐところですね。参謀本部や軍令部の課長や部長が、そこの侍従武官長に対して、これこれの勅語を出すよう天皇にお願いしてください、といってねだるのです。

池上:勅語、下から申請して、出されていたんですか?

コメント25

「池上彰の「学問のススメ」」のバックナンバー

一覧

「なぜ現場任せで、トップマネジメントが機能しなくなるのか?」の著者

池上 彰

池上 彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト

1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。報道局主幹を経て、2005年3月よりフリージャーナリストとして活躍中。2012年4月から東京工業大学で東工大生に「教養」を教えている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック