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なぜ日本人はリスクマネジメントができないのか?

加藤陽子・東京大学文学部教授に聞く【第3回】

2011年8月30日(火)

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池上:今回の東京電力福島第一原子力発電所の事故でもっとも象徴的だった言葉。それは、「想定外」でした。事故を起こした東京電力や監督官庁である原子力安全・保安院までが、今回の巨大津波による災害を「想定していなかった」ことを、早い段階から認めてしまいました。事故の責任をとりたくなかったからでしょう。

加藤:「想定外」の巨大自然災害だったから仕方がない、という話ですね。

「想定外」にしてはいけなかった地震と津波

池上:けれどもその後、今回と同規模の津波が東北地方の太平洋沿岸で、869年の貞観地震の際に起きていたことが震災前から分かっていた事実が明らかになりました。しかも原発関係者にも報告されていたことも判明しています。

 つまり「想定外」では済まされない、「想定内」にしておかなければいけない事態だったわけです。日本では、複数のプレートが重なり合い地震や噴火、津波はいつ何時おきてもおかしくない。それなのに、原子力発電所の建設も運営も、そんな起こりうるリスクを織り込んでいなかった。こうした体質は東京電力のみならず、日本の電力会社に共通することも露わになっています。

加藤:リスクを織り込まなかった理由の1つに、こうしたリスクを織り込むのは目先のコストがかかるから、というのがあるでしょうね。でも、そのコストを負うのを恐れると、今回のような巨大災害が起きた時に、もっと大きなコスト=被害を招く結果に陥ってしまう。

池上:どうも日本人は、リスクとコストの天秤のかけ方が下手ですね。もしかすると、コストと資産の区別がついていないからではないのかもしれません。震災や津波に対する十二分な対応策や施設や人材を、コストとみるか資産とみるかで、対応は180度異なってきますから。

人を資産とみなさずコストとみなすと、戦争に負けます

加藤:満州事変期以降の日本軍も、人口増加の圧力が非常に高かったという、当時の時代的制約もありますが、コストと資産といった区別など、できていなかったと思います。

池上:どんなところで?

加藤 陽子(かとう・ようこ)
1960年、埼玉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。89年、東京大学大学院博士課程修了。山梨大学助教授、スタンフォード大学フーバー研究所訪問研究員などを経て現職。専攻は日本近現代史。主な著作に『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)『戦争を読む』(勁草書房)、『それでも、日本人は戦争を選んだ』(朝日出版社)、『昭和史裁判』(文藝春秋)など。8月26日には『昭和天皇と戦争の世紀』(講談社)を上梓。(写真:大槻 純一、以下同)

加藤:なんといっても「ヒト」の面です。軍は、特に南太平洋での戦況が悪化した1943年以降、兵士を「資産」というよりは「コスト」、あるいは「消耗品」とみなしていたとしか思えないことをやりました。

 予科練も、時代によって、志願資格や技能など多様でしたが、1943年から旧制中等学校3学年在学以上に資格を下げた甲種飛行予科練習生の場合、つまり、十三期生からですが、その数2万8000名。その前の十二期は3000名しか採っていません。拡大のすさまじさがわかります。十六期までこのようにして約10万名採ったといわれています。

 日米戦の帰趨は、島嶼をめぐる制空権の奪い合いですから、この時の大切な資産は、戦闘機や爆撃機の性能、装備の優劣といった「ハード」だけではなく、パイロットの技能と熟練という「ソフト」面だったはずです。パイロット育成には時間、教官、設備が必要となります。その上で、2000時間ほどの操縦経験を積んで初めて、真珠湾攻撃時のパイロット級の腕前になっていた。

 予科練の人員の採用は一挙に9倍となりますが、練習設備や宿舎の拡張は追いつかない。例えば、土浦航空隊には約2000名しか収容できない。どうやって半年に2万名以上入って来る少年達を教育できたでしょう。結局、パイロットというよりは、特殊潜水艇や「桜花」といった特攻兵器の「乗員」にされてゆく。この時期の予科練にいた方の回想として、出たばかりの本ですが、宮田昇『敗戦三十三回忌』(みすず書房)は、このあたりの無念と実際を赤裸々に回想していて貴重です。

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「なぜ日本人はリスクマネジメントができないのか?」の著者

池上 彰

池上 彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト

1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。報道局主幹を経て、2005年3月よりフリージャーナリストとして活躍中。2012年4月から東京工業大学で東工大生に「教養」を教えている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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