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歴史も経営もそして政治も「科学する目」を持とう

加藤陽子・東京大学文学部教授に聞く【最終回】

2011年9月6日(火)

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池上:最後に、今回の震災と東京電力福島原発事故から日本人である私たちが「学ぶべきこと」を考えます。

 加藤先生には、日米戦争時の日本のトップマネジメントとリスクマネジメントの不在、そして大衆やメディアの「流されやすさ」をご教示いただきましたが、福島第一原子力発電所事故の背景と比較すると、敗戦時の日本と気持ち悪いほど似通った問題があることがはっきりしました。つまり、私たちはあの戦争からあまりに学んでいなかった――。

ジョン・ダワーの「役に立った戦争」から学ぶべきこと

加藤:『敗北を抱きしめて』でピュリツァー賞を受賞した、アメリカきっての日本近代史研究者のジョン・ダワーのいくつかの著作は池上さんならお読みでしょう。そのダワーに、「役に立った戦争」という、なかなか刺激的な題の論文があります。

加藤 陽子(かとう・ようこ)
1960年、埼玉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。89年、東京大学大学院博士課程修了。山梨大学助教授、スタンフォード大学フーバー研究所訪問研究員などを経て現職。専攻は日本近現代史。本企画で紹介している以外の主な著作には『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)『戦争を読む』(勁草書房)、『昭和史裁判』(文藝春秋)、『昭和天皇と戦争の世紀』(講談社、近刊)などがある。(写真:大槻 純一、以下同)

 書かれた年は1990年で、翌年、日本のバブルは崩壊しますが、書かれた時の感じでいえば、日本経済はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。またドイツも、東西ドイツを統一したコール政権の威信が最高潮に高まっていた。ダワーの着想は、当時、双子の赤字で苦しんでいたアメリカ人が素朴に感じていた疑問――第二次世界大戦で勝ったのはいったいどっちだ、日独じゃあないか――といった疑問を活かしつつ、では、戦後の日本の成長の源泉は何かとの観点から、戦前期の日本経済が到達していた生産性のレベルや、軍需産業の解体によって生じた膨大な熟練労働者・技術・設備が、民間へとスムーズに転移されたさまを活写したものです。今は、『昭和』(みすず書房)という本で読めます。

 日本もドイツも、資源や資金の少ない国でありながら、総力戦を長く戦った後に敗れた。ですからその間の、エネルギーや資源を最大化するための工夫や技術は、並大抵ではないなかったわけです。そして、金食い虫であった軍部という重石が、連合国軍の軍事力によって取り払われれば、残るのは、非常に効率の良い「日本株式会社」という形態だった、とこうなる。

池上:日独両国は、工業生産においては、負けたあの戦争を「役立てた」わけですね。となれば、今回の原発事故も、二度と同じ間違いを犯さないように、あらゆる経験を未来に「役立てる」必要があります。「役に立った原発事故」にするには、何をすればいいのでしょう?

加藤:たしかに、今なお、地震や津波や低線量被曝の被害に苦しんでいる人々にとって、「役に立った」という言葉は、なかなかつらいものがあるかと思います。ダワーの書名ではないですが、つらさを胸に「抱きしめて」、事故の内容を多角的に検証し、未来に残したいですね。

 原子炉の大型事故は、70年代の米国でのスリーマイル、80年代の旧ソ連でのチェルノブイリに続いて3回目。福島で起きた事故は、さまざまな意味で実験室のデータからは推測不能な状況を生み出しました。事故が二度と繰り返されないためにも、どこまでが人間の判断の誤りから発生し、どこからが設計の技術からすれば不可避な事態であったのか、それを考えるためにも、事故処理に干与したすべての政治的なプレーヤーの資料を事故調査委員会に集積してほしいと思います。

 その上で、原理の部分を考える理学者、応用の部分を考える工学者、国策としての原子力政策について制度設計を再考する政治学者や社会学者などの有識者を交えた第三者委員会のような独立した組織で、「科学する目」でデータを解析し、また今後の研究にも、政策立案にも役立てる必要があるでしょう。まずは資料を捨てないことが絶対に大事。九州電力の「やらせメール」問題の検証にあたっている第三者委員会の郷原信郎委員長の記者会見で発覚しましたが、九電はプルサーマル発電に関する資料を廃棄するよう、副本部長が指示していました。

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「歴史も経営もそして政治も「科学する目」を持とう」の著者

池上 彰

池上 彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト

1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。報道局主幹を経て、2005年3月よりフリージャーナリストとして活躍中。2012年4月から東京工業大学で東工大生に「教養」を教えている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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