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空飛ぶクリームパン

個性を消して売上高6倍~八天堂

2011年10月25日(火)

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 広島県三原市はどこにでもある地方都市の一つ。新幹線も停車するJR三原駅から歩いて数分のところに4坪ほどの小さな店舗がある。まだ周辺の店が営業を始めるか始めないかの朝早くにもかかわらず、多くの人が列を成す。

 その店の名は「八天堂」。クリームパン専門店だ。商品が店頭からなくなると売り切れ御免。ほぼ昼前には営業を終えてしまう。

港町・三原でクリームパンを求める人の行列(写真提供:八天堂)

 この小さな店が次に進出したのが首都圏と関西。商品は毎日広島から東京へ空輸する。本店同様、行列が絶えない人気を誇る。

 八天堂の土俵であるパンという市場はそもそも飽和している。農林水産省の生産動態調査によれば、全国の食パンの生産量は1981年にピークを迎え、それ以降は漸減している。かろうじて微増を続けていた菓子パンも、1990年代の半ばからは頭打ちになった。惣菜パンや調理パンも2000年頃から伸びなくなった。

 国民1人当たりの生産量で見ると状況はさらに厳しい。1970年代半ば以降、その生産量はほとんど変わっていない。つまり、戦後から食生活の変化と人口の増加で伸びてきたパンの消費量がすでにその時期に飽和していたのである。そして、今後は人口の減少と高齢化でさらに消費量が縮小していくことが容易に予想される。

 この大変に厳しい市場環境の中で、いまでこそ、クリームパンに特化して大繁盛している八天堂だが、これまで2度の大きな転機を経験、さらには倒産の危機に瀕したこともあった。

業容拡大の果てに全店赤字に

 八天堂は、今の3代目社長の森光孝雅氏の祖父が、1933年に和菓子店として創業した。当時は日本の一般庶民はさほど裕福でもない時代。甘くておいしい和菓子で、多くの人たちを元気づけたいという祖父の想いが創業の動機であったという。

 その後、1953年に八天堂を法人化。時代の変化もあり、経営を引き継いだ2代目になる孝雅氏の父が、扱う商品をそれまでの和菓子から洋菓子に変えた。これが八天堂の最初の業態転換であった。

 そして1991年に神戸にあるパン屋で修行していた孝雅氏が八天堂をパン屋に変えたのが2回目の業態転換期である。パン屋として再スタートを切り、「無添加、手作り、天然酵母」を売り物に、順調に業容を広げ、広島県内に10の店舗を持つまでに至った。

 多店舗展開していくにしたがって、「良い商品」ではなく「売れる商品」の製造と販売へと舵を切っていった。商品開発を推し進め、約100種類のパンを扱うようになった。こうしたありふれた企業努力にもかかわらず、逆に店舗経営は徐々に行き詰まっていった。

 「気が付いたら全店が赤字で、多くの従業員も離れていきました」。孝雅氏は当時を振り返る。

 苦難はまだ続く。2000年前後になって店舗を撤退しながら、食品スーパーなどで販売する袋詰めのパンを製造するようになると3~4年間は経営が回復した。しかし、三原の工場でパンを製造し、県内各地の食品スーパーに搬入していたことが次の危機を作った。食品スーパーがある地域の製パン業者も同じような袋詰めパンを作るようになり、さらに出来立てのパンを頻度多く納品できたことから、八天堂は経営の再び崖っぷちに立たされることとなった。

 債務超過に陥り、銀行からの融資も得られない。倒産の一歩手前まで追い込まれる。何より深刻だったのは、本来はもっと早く方針を転換しなければならなかったにもかかわらず、厳しくなる日々の経営に目を奪われるばかりで、新しいことを何かを考える余裕が孝雅氏からなくなっていったことだった。

 「何もアイデアが出てこない」。孝雅氏は方針転換は余裕があるときにしなければならなかったということを思い知る。

コメント3件コメント/レビュー

広島在住です。隣町で、たしかに早朝から並んでいて、買えたことがないのですが、200円という値段設定から、実は購入を躊躇してしまっています。先日、東京駅で売られているのも見たのですが、やはり200円では購入できませんでした。神戸の妹いわく、神戸元町で食べたけど200円なら違うものを買いたいとのこと。嗜好性のある商品ゆえに、商品の価値と価格設定が東京向けなのが、地元としては逆に残念な気持ちです。ただ、企業として狙いが定まっているというのは面白い話だと思いました(2011/10/25)

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「空飛ぶクリームパン」の著者

内藤 耕

内藤 耕(ないとう・こう)

サービス産業革新推進機構代表理事

世界銀行グループ、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センターを経て現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

広島在住です。隣町で、たしかに早朝から並んでいて、買えたことがないのですが、200円という値段設定から、実は購入を躊躇してしまっています。先日、東京駅で売られているのも見たのですが、やはり200円では購入できませんでした。神戸の妹いわく、神戸元町で食べたけど200円なら違うものを買いたいとのこと。嗜好性のある商品ゆえに、商品の価値と価格設定が東京向けなのが、地元としては逆に残念な気持ちです。ただ、企業として狙いが定まっているというのは面白い話だと思いました(2011/10/25)

最近、スイーツというのか馬鹿高いケーキがある一方で味もソコソコな安価な菓子パンやドーナツパンがある。私は、どちらもあまり買わない。値段が高ければ良い食材を使えてソコソコ美味しいのは当たり前だ。要するは、値ごろ感が大切だと最近考えるようになってきた。確かに、100円だいの菓子パンをちょっとした手土産に持って行くのは、格好が悪い。実際にもらったこともあるのだが10個近くの菓子パンには閉口したものである。なら、一個5,6百円もするケーキをもらってしまうと、今度はお返しが気になって、正直、味が下がってしまう。要は、値ごろ感があるものが一番だと思うのである。(2011/10/25)

タイトルのぶっとびさに思わず気になってHPを閲覧しましたが、クリームパンと一言に言っても、カスタードクリームだけでなく、抹茶クリーム、小倉(あん?)クリーム、チョコクリーム、生クリームにロールケーキにレモンパンと自社の得意分野に特化することで、クリームパンならここのを食べたいという消費者の心理をうまく突いていると思います。値段も200円程度なら、今日はパンでちょっとだけ贅沢といった時の気分の時にぴったりでしょう。(2011/10/25)

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