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トップの不祥事は人ごとではない

その時、自分と家族が路頭に迷わないための準備

  • 武田 斉紀

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2011年11月21日(月)

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私も当事者として体験した、トップによる日本を揺るがした事件

 オリンパス前会長兼社長らによる損失隠し、大王製紙前会長への不正融資など、企業トップによる不祥事が続いている。日経ビジネス本誌やオンライン版、さまざまなマスコミでは、主に企業統治(コーポレートガバナンス)の観点や、世界に与えた日本企業に対する不信といったテーマで語られている。

 私はこれらとは、ちょっと異なる視点でとらえてみたい。1つは従業員側の視点として「トップによる不祥事が起きてしまった時、従業員はどのように対処すればよいか」についてだ。今ごろオリンパス、大王製紙両社の従業員のみなさんとご家族は、突然悪い意味での有名企業になってしまい、戸惑っているに違いない。

 もう1つは「トップが不祥事を起こしそうかどうか、どのように見極めればよいか」。そして不祥事とは無縁の「“真面目に経営に取り組んでいる”経営者にとっては、その思いを従業員にどのように伝えればよいか」について。しっかりと伝えられれば、従業員も日々安心して働くことができる。

 ではまずは「トップによる不祥事が起きてしまった時、従業員はどのように対処すればよいか」について。今回の2社のケースでいえば、従業員は何も悪くない。厳しい声が従業員と家族に向けられていないことを祈るが、状況がよく分からないと世間は意外と冷たいものだ。「あのオリンパス」「あの大王製紙」というだけで敬遠しようとしたり、その従業員や家族というだけでそしる人も中にはいる。かといって従業員と家族は、会社の不祥事という事実から逃れられない。転職したところで元○○という事実は消えないのだ。

 私自身も同じような経験をしたので、2社の従業員と家族への同情は募る。23年前の話をしようと思う。1988(昭和63)年のことだ。私は日本の歴史に残る経営トップによる不祥事、「リクルート事件」を、1人の従業員として体験した。

 当時私は入社3年目で、所属は人事部人事課。中途採用と、従業員の約半数を占めていたアルバイト(といっても彼らはほぼ毎日フル出社して、社員顔負けの働きをしていたが)の採用を担当。ピーク時には新卒採用の部隊も手伝うなど、採用全般を預かっていた。

 人事部は銀座本社(当時)の9階にあって、社長室は1つ上の10階。従業員数は確か4000人近くになっていたと思う。創業者であり代表であった江副(えぞえ)浩正さんは、すでに社員からは雲の上の存在になっていた。1フロア違うだけでも、姿を見かける機会はほとんどなかった。

 10階の社長室や経営企画室には、同期の仲の良い友人が何人かいた。だが彼らとて、江副さんとごく一部の幹部が関わっていた不正に気づくことはなかったという。9階にも噂は伝わってこなかったし、現場の一線で働く従業員や支店や営業所の従業員には、寝耳に水の事件だった。

 従業員が知ったのは、確か6月某日のことだ。本社にはその日の夕方、某テレビのニュース番組で悪いニュースが流れるとの事前情報が入っていた。我々には詳しい内容は知らされていない。夕方6時、私は部署の仲間とともにフロアに運んできたテレビを注視した。経営トップによる贈賄事件。頭を殴られるようなショックを受け、心臓がドキドキしていたのを覚えている。

 ニュースは一瞬にして全国を駆け巡った。ニュースを見た親戚が、ひとまず親の所に電話してきたのだろう。翌日早朝、電話が鳴った。田舎に住む母親の声が震えている。「どうしたの、何が起こったの?」。「こっちが知りたいよ」と返すのが精一杯だった。自分がこの会社を選んだせいで、家族にも迷惑を掛けてしまった。

 有力政治家も巻き込んだ複雑な事件は、少しずつ明らかになっていった。10月、かねてより希望していた事業部への異動がかなった私は、事件が会社に与えた影響の大きさを現場で感じた。出入り禁止や取り引き停止になったクライアントも少なくなかった。誰もが断わりの電話に慣れっこになるくらい、現場の従業員の心は荒みかけていた。

 「あなたのことは好きだし信じているのだけど、ごめんよ」と言ってくれる担当者もいた。これまで現場でクライアントのために汗を流してきた人たちにとっては、そのひと言は心に染みた。

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