• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

第12話「私はあの人とでなくてもよかったし、会社を辞めてもよかった」

2011年12月12日(月)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 古堂房恵は、50歳が近づいてきたころから、ときどき自分の過去を振り返ってみることがあった。

 ――おーいやだ、いやだ。昔のことなんて。第一、懐古趣味なんて私に似合わない。私らしくない。
 私らしくない?
 でも、私って、なに? ここから、いったいどこへ行ってしまうの?
 それにしても、この私に50歳の誕生日が来てしまうなんて。
 本当なの?

 22歳で女子大を出て、すぐに内外海行に入社した。決まったのは1年前のこと。就職問題がほかの人より先に片付いたのがうれしくって、大好きな広尾の街を歩きまわった。自分で足の爪紅く塗って、外からよくみえるようにピンクのサンダルはいて。

 交差点にある背の高いマンション二つ、いつもよりとっても大きくて、頼りがいがあるようで、素敵に見えたっけ。その隣の、街路沿いのアーケードにあるシャンパンの名前のついたレストランにひとりで入って、紅茶を頼んだ。「ダージリンのファースト・フラッシュ」っていうところを、「フレッシュ」と言ってしまって、黒い制服を着た男の人に「えっ?」って聞き返されちゃった。この小娘、って顔してた。

 1階の奥、一面の窓が広がってて、その向こう側が緑に囲まれたお花畑。素敵! いつかこんなところで暮らしてみたい、って思った。

 隣には、金髪の大柄な女性と背広を着た英語の上手な日本人の男が、二人きりの昼ごはんを終わるところだったみたい。よくわかんなかったけれど、なんだか別れ話してるみたいな雰囲気だった。
 昨日のことのよう。でも、もう30年近く前。28年。

 受付になったときは、緊張の連続。怖かった。だって、偉そうな人とか、ずうずうしい人とか、自分勝手に一方的に喋る人とか、おかしな人がくるんですもの。

 でも、しばらく働いているとだんだんわかってきた。本当はこっちのせいだったって。私がコチコチの顔しているから、相手もどう話しかけていいのかわからなかっただけ。私がほんの少し意識して微笑んでみたら、みんな、とってもていねいな人なんだってわかった。

 慣れたかなあ、と思ってたら、突然、常務さんが私に秘書になってほしいと言っているからそっちに行って、って総務の人に言われた。

 常務さん? いまそんな言いかたで呼ぶと、まるで別の人みたい。南川丈太郎。はじめ、変わった人がいるとしか思わなかった。用事もないのに受付に来て私に話しかけたり、勝手にこっちのことを見ていたり。そんな人の秘書になれなんて。ちょっと心外だった。でも、とっても笑顔が可愛い人だった。だから、OKした。

コメント0

「あの男の正体(はらわた)」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

人は何か自信を持って誇れるものを持っているはずです。

為末 大 元プロ陸上選手