御厨貴先生と池上彰さんが、日本の小さすぎる「首相の器」をテーマに語り合うこの連載。これまで首相育成システムの崩壊や、マスコミの政治報道のあり方、政治システムの構造的な欠陥について議論してきました。
最終回の今回は、政治家や官僚の器を一気に大きくできる秘策をご紹介します。さらに、野田佳彦首相に話が及ぶと、お二人から意外な言葉が飛び出します。日本の首相の器が、少しでも早く、少しでも大きくなることを願うばかりです。
官僚になりたくない東大生たち
池上:日本の首相が、どうしてこうも短期間に交替してしまうのか。首相の器を小さくしてしまった背景には、いろいろな課題があることが見えてきました。さらに、短命な日本の首相を支えてきた、「官僚」と「経済成長」とが、どちらも力を失いつつあることが大問題であることも。

1951年東京都生まれ。1975年東京大学法学部卒。同助手、東京都立大学法学部教授、ハーバード 大学客員研究員、政策研究大学院大学教授を経て現職。復興構想会議議長代理、TBS「時事放談」キャスターも務める。主な著作に、『政策の総合と権 力』(1996年、東京大学出版会)。『馬場恒吾の面目』(中央公論新社)などがある。
(写真:大槻 純一、以下同)
御厨:そうなんですよね。首相の器がどんなに小さくても、内閣がころころと変わっても、日本という国が動いてきたのは、いろいろ批判はあるけれど、やはり官僚が支えてきたからです。ところが、その官僚を多数輩出してきた東京大学のゼミの現役学生たちは今、「官僚ってだめですね」と言うんです。そこで「そう言うけど、この国を支えてきたのは、君らの先輩たちでもある官僚だぜ」と、かつて官僚が国を支えていた時代のことを説明してあげると、「へえ〜」と驚かれたりする(笑)。
池上:官僚を大量に輩出し続けてきた東大の現役学生が、もはや官僚の能力や果たして来た役割を知らないわけですか。
御厨:僕がいま教えている20歳前後の学生たちは、小泉純一郎元首相を、なんとか知っているという世代です。つまり「首相の器」が小さくなった時期、1年ごとにめまぐるしく変わった首相の姿しか見ていない。それ以前の歴史なんて、実感としてはわからないものですよ。だから、政治不信の世間の空気しか吸ったことがないわけです。
池上:しかも、マスコミの官僚叩きの報道をずっと見てきた世代でもありますね。官僚へのイメージの低下は、相当なものなのでしょうね。前首相である菅直人さんも官僚嫌いが激しかった。菅さんの官僚嫌いは、東日本大震災が起きても、政治主導を振りかざして、官僚が動くに動けない状況を作ってしまった。そういえば、先生、かつては迷わず官僚になっていた優秀な東大生たちが、最近、官僚にならないというのは本当ですか?
御厨:一時は本当にそうでした。以前なら財務省に行っていたようなトップクラスの成績の学生たちが、官僚には目もくれず、外資系金融機関に就職していきました。ところが、リーマンショックを経て外資系の金融機関もダメになったので、今では「やっぱり官僚かな」という雰囲気に戻っています。いますけれど……それでも、官僚になることに本当に悩んでいます。なかなか官僚になることを決断できない学生が多いのが実情ですね。
池上:官僚になることを悩む東大生たち、ですか。
御厨:ええ。私のところにやってきて、「先生、本当に官僚になって大丈夫でしょうか」と悩みを打ち明けるんです。要するに、僕から「官僚になりなさい」という言質を取りに来ているわけです。どこかの省庁に入って失敗したなと思ったときに、「あのとき御厨先生にうまいこと言われて入省したけど、やっぱりダメだったな」と思いたいがためだろうという魂胆がミエミエ(苦笑)。だから、絶対に言質を取られないように、「それは私の決めることではありません」と答えています。
池上:先生から言質を取ろうとするなんて、官僚の卵として十分な資質を持っているじゃないですか(笑)。
現役官僚も「一生務め上げるかわからない」
御厨:そうそう(笑)。だからそういう学生たちは最終的には官僚になるのだろうと思っていますけどね。そんな学生たちが多いからこそ、現役の官僚たちには頑張ってもらいたいですね。かっこいい背中を学生たちに見せてもらいたいんです。官僚がバッシングされる姿ばかりを見て育った学生たちだから、不安なんですよ。いざ自分が、その立場になるのかと思うと、ひるんでしまうのは無理のないことです。
こんな話もあるんですよ。官僚になろうかどうか悩んでる学生たちは、各省を回って説明会などに参加します。そこで、ある学生が現役官僚にこんな質問をしたそうです。「あなた自身は定年までこの省にいるおつもりですか」と。そうしたらその官僚、「うーん」と唸って、「わからない」と答えたんだそうです。
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1950年長野県生まれ。慶応義塾大学卒業後、1973年NHK入局。1994年よりNHK「週刊こどもニュース」でお父さん役として出演。2005年3月にNHKを退社し、現在はフリージャーナリストとして活躍。著書に

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