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「知性の失敗」のユーロ、「自由の失敗」のアメリカ

池上彰×岩井克人対談 「お金の正体その2」

2012年1月16日(月)

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 2011年、欧州ではユーロ危機が起きましたが、その前に世界を襲った「お金の危機」、それはなんといっても、米国で2007年のサブプライムショック、2008年のリーマンショックです。

 80年代末の東西冷戦の終結と相前後して、アメリカを中心とする金融市場は規制緩和をどんどん行い、実体経済を超える巨大なお金が動く世界ができあがりました。自由放任、新自由主義を標榜し、市場原理ですべてを解決しようというこの流れ、はたして正しかったのでしょうか?

 ユーロ危機が「知性の失敗」だとすると、アメリカの金融危機はさしずめ「自由の失敗」である、と看破する岩井克人・東大名誉教授に、引き続き「お金の正体」に迫っていただきましょう。

池上:欧州の人たちが知性を結集して創り上げた共通通貨「ユーロ」。しかし、そのユーロによる経済圏が危機に直面しています。前回は、岩井先生に、なぜユーロ構想がうまくいかなかったのか、なぜ共通通貨ユーロが失敗したのか、その理由を説明いただきました。お金、そして経済という元々管理が難しいものを、「人間の知性」でコントロールしようとしたのが失敗の原因である、というお話でしたね。

岩井:はい。ユーロを通じて平和で安定的な欧州社会を創ろうという意気はよかった。もっと時間をかければ成功したかもしれません。ですが、あまりに拙速でした。

池上:このユーロの失敗を見て、意気軒昂なのが、経済の自由放任主義を標榜してきた経済学者ミルトン・フリードマンを筆頭とする英米の自由主義経済派、リバタリアンの人たちですね。「ほら、今までさんざん我々が主張した通りではないか、お金や経済など、人がコントロールするものじゃない。市場に任せろ」という意見です。

岩井:たしかにユーロの失敗だけを眺めると、新自由主義の相対的勝利に見えます。けれども、私の意見は違います。今回の金融危機はむしろ「市場の見えざる手にすべて任せよう」というフリードマン派の思想の崩壊の始まりです。

ユーロ危機=「知性の失敗」をもたらしたのは新自由主義?

池上:自由放任主義もまた崩壊しようとしている。つまり、今、意気軒昂なフリードマン流の経済政策も間違っているということですか?

いわい・かつひと氏
1947年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学Ph.D.。イェール大学助教授、東京大学経済学部教授などを経て、現在は国際基督教大学客員教授、武蔵野大学特任教授、東京財団上席研究員も務める。"Disequilibrium Dynamics"にて日経経済図書文化賞特賞、『貨幣論』にてサントリー学芸賞、『会社はこれからどうなるのか』にて小林秀雄賞受賞、ほか著書多数。(写真:丸毛 透、以下同)

岩井:そうです。彼らはユーロ危機における共通通貨ユーロの失敗だけをつついているのですが、ユーロ危機の原因を辿っていくと、通貨統合のみならず、新自由主義経済の失敗が後ろに隠れていることがわかるからです。

池上:え、具体的にはどういうことでしょうか?

岩井:2011年、ユーロ危機の前に起きた世界を襲う「お金の危機」、それは2007年のサブプライムショックであり、2008年のリーマンショックでしたよね。

池上:あ、たしかにそうですね! 2008年9月15日にアメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻し、世界同時不況の引き金を引いたのでした。そのリーマンショックのさらに遠因を辿ると、米国の住宅バブル崩壊とセットとなった2007年のサブプライムローン問題がありました。

岩井:ユーロ危機の前に、まず新自由主義経済の総本山である米国で、自由主義経済の主役でもある金融市場が崩壊した。この事実を見逃してはなりません。その結果、米国に投資していた欧州の金融機関が経営危機に陥り、ユーロ各国も、その救済に乗り出さざるを得ませんでした。その巨大な余波が、ギリシャやイタリアの国家破綻の危機の遠因にもなっているわけです。つまり、ユーロ危機の一部は、アメリカの金融危機によってもたらされたのです。経済における「知性の失敗」が起きる以前に、「自由の失敗」がまずあった。

池上:たしかにおっしゃる通りです。では、新自由主義経済とはそもそも何だったのか。そこから振り返って、岩井先生に「新自由主義の失敗」について、ご説明願いましょう。

岩井:資本のグローバル化が本格的に始まったのは1980年代からですが、既に1970年代のニクソンショックによって、世界中の為替の大半が変動相場制へと移行し、資本の移動をうながしました。70年代末から80年代初頭にかけて登場した、米国のロナルド・レーガン政権、英国のマーガレット・サッチャー政権は、フリードマン思想に影響を受けて、さらなるグローバル化を進めたのです。

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「「知性の失敗」のユーロ、「自由の失敗」のアメリカ」の著者

池上 彰

池上 彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト

1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。報道局主幹を経て、2005年3月よりフリージャーナリストとして活躍中。2012年4月から東京工業大学で東工大生に「教養」を教えている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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