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拙速なTPP交渉は東アジアのリスクとなる

2012年2月27日(月)

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 2011年11月に米ハワイ・ホノルルで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)会合の直前に、環太平洋経済連携協定 (TPP) が実現に向けて大きな一歩を進めたのは記憶に新しい。このTPPは、米国のオバマ大統領にとって、前任者から引き継いだものとは違い、自分の意思で取り組む初めての貿易協定だ。そのためか国際政治の世界では、TPPは米国がアジア諸国との関係維持に使う道具と見られている。その文脈からすれば、APECのホノルルサミットでは、米国側から各国に対してTPP交渉を前進させる方向での圧力がかかることは、自明であった。

 現在、TPP交渉にはAPEC加盟国のうちオーストラリア、ブルネイ、チリ、マレーシア、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国、ベトナムの9か国が参加している。TPPはもともと、アジア太平洋地域の経済をより統合させていくような、実質の伴う21世紀型の合意を目指してきた。

 そんな状況の中で野田佳彦首相は、9か国が進めるTPP交渉に参加すると表明したのである。これは、TPP交渉の進展から考えると、極めて重要な出来事だった。東アジアの大国である日本が「交渉に参加するため、TPP交渉国との協議を開始する」ことは、確実にTPPという枠組みの国際社会における重要性を高めるからだ。

APECの成功をTPPの進展に結びつけるべきではない

 それを裏づけるかのように、以後は日本に加え、メキシコとカナダもTPP交渉への参加表明をしている。だがTPPは各国の期待とは裏腹に、東アジア各国に根づいている地域主義など、アジア太平洋が経済統合を進めていくうえで直面する様々な課題の解決にはほとんど効果がない。

 大切なのは、TPPでは、1国や選別された国々の限られた関心を超えて、アジア太平洋地域への意義という観点から考えることである。

 たとえばAPEC加盟国の一部が、全体的には不調に終わる恐れのあるTPP交渉で行き詰まることにより、APECの交渉でもやる気を失ってしまう恐れがある。貿易交渉というものはそもそも時間がかかるものだが、交渉に参加する国が多くなればなるほど、より結実するまでに時間がかかってしまうからだ。

 そうした意味において、筆者はTPPは時間をかけて取り組むべきであり、性急に実現すべきではないと考えている。さらに重要なポイントは、「APEC会議での成功を、安易にTPPの進展に結びつけるべきではない」ということだ。TPPの交渉がうまく進まないのは、決して、APECでのプロセスの進展が不十分だからではないことを肝に銘じるべきである。一方が他方の足を引っ張るものであってはならない。今回こそ米国の思惑によりAPEC会合がTPP交渉を前進させるために使われたが、それぞれ、別の交渉として考えるべきだ。

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「拙速なTPP交渉は東アジアのリスクとなる」の著者

A 士郎

A 士郎(あーむすとろんぐ・しろう)

豪州国立大学経済政府研究所研究員

オーストラリア国立大学(ANU)クロフォード経済政府研究所研究員。2004年オーストラリア国立大学経済学部卒業。。2009年、日中関係の政治経済学で同大学経済学部からPh.D.を取得。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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