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第15話「この男は悪魔だ。一番弱いところに親切ごかしにつけこんでくる」

2012年3月19日(月)

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 「社長は、いったいなにを考えておられるのか?」
 言いながら、男は右手を手羽先の串にのばした。短く刈り込んだ髪の下に、鼻のあたりがまわりに比べて一段低くなった、凹型(おうがた)の顔がついている。

 「さあな。おれたちなんかにゃわからないような、なんか凄いことが腹の中にあるっていうんことなんじゃないか」

 焼鳥屋のカウンターに、どちらも50を越えたとおぼしき男が二人すわっている。答えたほうの男が、大きな動作でビールのグラスを飲みほすと小さなため息をついた。七三にきっちりと分けられた頭が、卵をふくらませたような、肉付きのよい顔といっしょになって如何にも一流商社のエリート然とした雰囲気をただよわせている。

 カウンターのほかには4人がけのテーブルが二つあるだけの、小さな焼鳥屋だった。ゆったりとした椅子の並びから、安いことだけが取り柄の店ではないことがわかる。カウンターの中で串を焼いている老人も、クリーニングから帰ってきたばかりという真っ白な上下に糊のきいたつばのない帽子をかぶっていた。

 七三の男が、
 「内外・番外、ってことだからな。思いもしなかったような、わけのわからんことが起きるのさ」

 そう屈託のない声を出すと、今度は凹型が、手羽先を串から器用に外して皿に盛りながら、
 「そうかなあ。おれには、社長のお気持がさっぱりわからないんだ」
 自分に言いきかせでもするようにつぶやくと、

 「とつぜん捨身飼虎しろ、なんて言われてもなあ、いったい全体なにをお考えなのか」

 凹型は、三角に折られたペーパー・ナプキンをていねいに両手で広げてから、指先についた脂(あぶら)をこするようにしてふき取ると、また二つに折りたたみ直した。

 七三が、
 「おれは、社長が行けというところなら、どこへでも飛び込んでいく。サラリーマンだからな」
 と言うと、凹型もあわてて、
 「いや、それは同じさ。おれも社長のおっしゃるままさ。
 今までだって、いつもそうだった。
 俺は、釧路にも行ったし、バンクーバーにも行った。ナイロビじゃ、道に迷ったこともある」
 と付け足した。

 「そこで、どうだった? 結局のところ、楽しかったってことじゃないのか?
 なにせ、そいつの積み重ねしかおれたちの人生はないんだからな」
 「ああ、そういうことだ。
 確かにそうなんだが、でも、なんだか今回は違うんだ」

 「なに言っているんだ、片岡」
 どうやら、凹型は片岡という姓のようだった。

 「でも、満田、おまえだってそう感じたんじゃないか。あの、常勤取締役会からして、なんか変じゃなかったか?」
 満田と呼ばれたのが、七三だった。

 「なにが?」
 「ウチは、前はあんなじゃなかった」
 「前?」
 「ああ、南川社長がいらしたころは、ああじゃなかった」
 「片岡、おまえなに言っているんだ。もう南川さんはいないんだよ。昔も昔、大昔のことにすぎん」
 「ああ、わかってるさ、わかってるさ。
 だから、言うんだよ。
 つまり、おれたちの会社、どうなっちゃうのかって、不安なんだ。
 おれとおまえが同期で会社に入ったのが30年前だ。南川さんは、まだ常務にもなっておられなかった」

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