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小さくなる米国に、変わるアジアの安全保障

日本経済新聞社編集委員 鈴置高史さんに聞く朝鮮半島情勢【番外編その3】

2012年5月16日(水)

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2012年は朝鮮半島を巡る情勢が急変することになりそうだ。韓国は大統領選を控え、与野党ともに左傾化傾向が強まっている。そして、北朝鮮は政権を握ったばかりの金正恩第1書記の下、ミサイルの発射に踏み切り、さらには核実験の実行までも懸念されている。米国や中国などの大国の論理に翻弄されてきたこの2国はこれからどう動くのか。日経ビジネスオンラインで「先読み 深読み 朝鮮半島」を連載中の、日本経済新聞編集委員、鈴置高史さんに聞いた。

池上:アジアの安全保障のカギを握るのはやはり大国である中国です。その中国はいま、海での軍事力増強に余念がありません。ワリヤーグという1980年代に旧ソ連が建造した空母もどきの航空巡洋艦を買い取って修理し、誇示していますね。将来、台湾の併合を目指したとき、アメリカの介入を念頭に置くと、中国近海での軍事力を強化しておくのは必須、というわけです。

 そこで鈴置さんに質問です。台湾併合も含めた近海での覇権のために海軍のパワーアップを図る、というところまでは読めるのですが、その先、中国は何を目指しているのでしょうか?

鈴置:10年前から中国には2つの考え方があったと思います。まずは、国内の充実を図る、という発想。驚異的な成長を遂げたとはいえ、貧富の格差は大きい。国内に山積する問題の解決にまずは全力を注ごうというわけです。もう一つは、そろそろ外に向かって威を張るべきだ、という考え方です。海軍力を一気に増強し、米国と対等に渡り合えるようにすべきだ、というわけです。最近は、後者の意見が大勢を占めているようです。自らが予想外に成長したことに加え、米国の弱体化がこれまた予想外に早く始まったかに見えるからでしょう。

 毎日のようにニュースで流れる中国艦船の太平洋進出と日本、フィリピン、ベトナムなどとの領海・領土を巡る摩擦。日本人もようやく、台湾海峡や尖閣諸島、東シナ海、南シナ海に中国が手を伸ばして来た、という実感を持つようになりました。でも、私は黄海にも注目すべきと思います。

 黄海は首都、北京の玄関。中国にとって極めて重要な海です。日清戦争も日露戦争でも、日本が開戦劈頭にこの海で清国やロシアの海軍を打ち破り、海上優勢を確保しました。海洋勢力が中国大陸に攻め入るには、黄海の海上優勢が必須だからです。逆に中国からすれば、国を守るためには黄海の海上優勢を維持するのが必須です。

 黄海の西側は中国、東側には朝鮮半島があります。中国と韓国の間では黄海のEEZ(排他的経済水域)に関する主張が食い違い、まだ、境界線を画定していません。

 そして今、黄海の入り口にある「Sokotra Rock」という暗礁を巡り、中韓がもめ始めました。この暗礁はそれぞれが自国のEEZ内にあると主張し、中国は「蘇岩礁」、韓国は「離於島」と呼んでいます。韓国は1990年代後半に、この上に海洋科学基地を作りました。中国は抗議しましたが、大きな紛争にはなっていませんでした。

 それが今年3月、突然に中国政府高官が「蘇岩礁周辺を含め我が国のEEZのパトロールを強化する」と語ったのです。韓国では「中国が空母を投入し攻めてくる」と大騒ぎになりました。4月下旬には中国とロシアの海軍が黄海で大規模演習を実施しました。黄海にも波風が立ち始めたのです。

池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。94年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説して人気に。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。主な著書に『伝える力』(PHPビジネス新書)、『知らないと恥をかく世界の大問題』(角川SSC新書)、『そうだったのか! 現代史』(集英社)など多数。
(写真:丸毛 透、以下同)

池上:尖閣諸島の問題とまったく同じですね。日本が尖閣諸島を自国の領土だと主張する根拠のひとつに、日本は中間線、つまり排他的経済水域の境界を定める基準線より日本側にあるからと言っているのに対して、中国は、「大陸棚は自国の陸地の延長上にある」として、尖閣諸島は自国のものだとしている。

鈴置:中国は「パトロール宣言」で韓国を威嚇した直後、「EEZの確定を目指し、韓国と談判する」と言い出しました。李明博政権はこれに応じる方向と伝えられています。韓国は中国のワナにはまりかけています。

 中国は大陸棚理論をもってして蘇岩礁を含む黄海の広い範囲が自国のEEZであると主張しています。一方、韓国は中間線理論をもって離於島を含む海域を自国のEEZと主張しています。李明博政権は韓国メディアに「韓国の論拠である中間線理論は国際的にも認められつつあるから、談判したら我が方が必ず勝つ」と説明しています。

 ところが韓国は日本に対しては中間線理論ではなく、大陸棚理論を主張しています。東シナ海にある第7鉱区と呼ばれるエリアは、中間線論では明らかに日本のものですが、大陸棚論では韓国のものにもなる。だからこの件については、韓国は大陸棚論に立っているのです。

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「小さくなる米国に、変わるアジアの安全保障」の著者

池上 彰

池上 彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト

1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。報道局主幹を経て、2005年3月よりフリージャーナリストとして活躍中。2012年4月から東京工業大学で東工大生に「教養」を教えている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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