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景観論争から考える「良い経済学、悪い経済学」

法律の「正義」と経済学の「正義」の違いとは

2012年7月31日(火)

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 グローバル資本主義に対する批判やウォール街の占拠など、世界中で「市場主義」に対する否定的な見方が広まっている。伝統を、地域コミュニティを、道徳を、愛を、尊厳を、すべてをカネで買い漁る。そんな市場主義に少なからぬ人々が違和感を抱いている。筆者は経済学者だが、個人的にはそのような「市場主義に対する違和感」に共感するところも多い。また、マイケル・サンデル米ハーバード大学教授の『それをお金で買いますか 市場主義の限界』でもそうであるように、市場主義の正当化の役を担っているのが経済学だと目されたりもしている。

青空が広がる整然とした街並み。東京でこうした街並みは極めて貴重だ

 経済学は本来、お金に関する学問ではなく、社会や人間行動に関する学問だ。確かに経済学ではお金の役割が強調されることも多いが、社会現象の分析を出発点とするところは、法学や政治学と同じだ。ただ、視点が異なるわけだ。その違いを次の例を手がかりに考えてほしい。その上で、市場主義と経済学の役割に立ち戻ろう。

景観の美しい地域に持ち上がった「高層マンション計画」

 周囲には2階建の戸建て住宅がほとんどの東京都内のある市のある地域に、18階建ての高層マンションの建築が計画されたとしよう(実際にあった事件だ)。周辺の美しい街並みは全国的にも知られていて、東京都や国土交通省からも表彰を受けたりしている。街並みは整然としていて、駅前から4車線の大通りがまっすぐ南に伸び、イチョウとサクラの街路樹が立ち並ぶ。

 大通りに沿って立ち並ぶ建物は街路樹の高さに合わせてせいぜい3階建て程度であり、大通りからは広い空を見上げることができる。その中に、18階建ての超高層マンションが建つのはいかにも不釣合いだ。そこで、街並みを保全したい近隣住民や学校と、高層マンションを建てて利益を得たい建設会社が衝突した。

 建設会社は既に約90億2000万円で建設用地を購入しているので、どうしてもそこにマンションを建てて販売し、利益をあげなくてはならない。対する住民・学校側は、街並みを美しく保つ「景観保全」の努力を50年以上も続けてきた。その成果が現在の美しい街並みであって、それを高層マンションで台無しにされては困る。両者の利害対立は、結局、裁判で争われることになった。住民側に行政(市)も加わり、マンション建設中止を求めて、建設会社と真正面から法廷で争うことになる。

 では、ここでの論点は何だろう? この記事を読んでいるビジネスパーソンなら、景観保全に敏感な街に高層マンションを建てようという、建設会社の経営判断に疑問を持つかもしれない。反対運動や訴訟は想定できるはずだ。会社のイメージを悪くしてまで法廷で争うのは、企業の利益という観点から見てもマイナスの方が大きいのではないか。

 もしくは建設会社には勝訴の見込みが最初からあり、マンション販売で得られる利益が確実と見越しての行動だったのかもしれない。だが経営視点での分析は読者の方が詳しいと思うので、ここでは「法学」と私の専門である「経済学」の考え方を基にこの事例を考えたい。

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