• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

景観論争から考える「良い経済学、悪い経済学」

法律の「正義」と経済学の「正義」の違いとは

2012年7月31日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 考えられるひとつのキーワードは「権利」だ。まず、建設会社には、閑静な街並みに高層マンションを建てる権利があるのか。住民と市当局の長年の努力の成果である美しい街並みを踏みにじってもよい権利が、建設会社にはあるのか。一方、市当局と住民側には、不動産を購入した建設会社が、自分の土地でやろうとしているマンションの建設を中止させる権利があるのか。この「財産権」は、社会にとって極めて重要な権利だ。建設用地は建設会社の私有財産だ。たとえ近隣住民は心よく思っていないとしても、自分の財産を好きに使う権利が、建設会社にはある。

 裁判での論点は他にもある。良好な景観を享受する権利としての「景観権」が、近隣住民にあるのだろうか。それは、窓外に広がる良好な景色を眺めるときの「眺望権」とはどのように異なるのか。あるいは、景観が公共のものだとしたら、そもそも個人が権利を主張することはできるのか。権利については、このような根源的な議論も避けられない。

 利害の衝突があった場合、実社会で重要なのは、「権利」の有無や性質についての議論だ。そういったわけで、「権利とは何か」を法律で定めておくことは国家・社会にとってとても重要である。権利についての取り決めが曖昧なままでは国家として体をなさない。だから、明治期に大慌てで近代国家になろうとしていた当時の日本も、権利の体系「民法」の整備を急いでいた。

 一方で、経済学のアプローチはどんなものだろうか。この事例におけるキーワードは、「余剰」という指標だ。社会がどれだけ豊かになったかを測る指標のひとつである。権利の意義を無視するわけではないが、いったん権利のことは別に置いておこう。その上で、マンションが予定通り建設されるべきか中止されるべきか考えてみたい。判断基準はとても単純で、次の2つのことを比較して余剰を計算するだけだ。

 プラス要因 :マンションに住む人の便益、建設会社の利益など
 マイナス要因:マンションが建つことで発生する様々な損失

プラス要因とマイナス要因をすべて計上して考える

 もし、マンションが建設されれば、そこに新たに住みはじめる人たちがいる。その住人たちは、マンションに住むことで何がしかの便益を得る。もちろん、その対価が家賃や住宅ローンというわけだ。その対価を受け取り、建設会社が利益を稼ぐのであれば、その利益もプラス要因に計上する。

 一方、高層マンションが建ち景観が損なわれることで、周辺住民の住環境の質が低下する。さらに、景観にひかれてやってくる人たちをお客さんとしている商業施設もマイナスの影響を受ける。それだけではない。全国的に知られる美しい街並みに高層マンションが建ってしまうことで、他の地域の景観保全活動にもマイナスの影響があり、その地域の街並みの美しさが損なわれるという間接的影響も考えられるだろう。これら全部をマイナス要因に計上しよう。

「「気鋭の論点」」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

日本の経営者は、経験を積んだ事業なら 失敗しないと思い込む傾向がある。

三品 和広 神戸大学教授