日経ビジネス別冊「新しい経済の教科書2013~2014」連動の今回のシリーズ。前回に引き続き、星岳雄スタンフォード大学教授との対談をお送りします。
(前回から読む)
池上:TPPを巡る議論には、「すべてまとめて賛成」か「反対」かと問うような、ずいぶんと乱暴なものもありますね。本来なら、個別に見て判断すべきだと思いますが。星さん(星岳雄・スタンフォード大学教授)は、どうお考えですか。

米スタンフォード大学教授。1983年東京大学教養学部卒、米マサチューセッツ工科大学経済学博士(Ph.D.)。米カリフォルニア大学サンディエゴ校教授などを経て現職。近著に『何が日本の経済成長を止めたのか―再生への処方箋』(日本経済新聞出版社)がある。(写真:LIVE ONE 菅野勝男、以下同)
星:そもそも、交渉に参加することに反対する人がいるのも謎です。まずは参加して、優れた条約にしていくのが、大国としての日本の役割であるはずです。
池上:それに、議論に途中から参加するということは、すでにある程度話が決まったところへ入っていくということですから、自国にとって不利になりますよね。実は日本はこれを繰り返しています。GATTのウルグアイラウンドもそうでした。
星:残念ながら、また繰り返しになる可能性はありますね。ただ、遅れての参加であっても、参加しないよりはましです。
池上:「より悪くない選択」という考え方ですね。日本は、TPPではどのようなことを進めていくべきですか。
TPPは「競争の場」ができることに意味がある
星:TPPというのは、貿易自由化のためのフレームワークです。これができることで、消費者が得をするのは明らかです。いろいろなものが安く買えるわけですから。
日本はすでに、自由貿易協定(FTA)というフレームワークは持っていますが、これは日本の貿易量の24%しかカバーしていません。というのは、ここにアメリカや中国が入っていないからです。TPPは、経済連携協定(EPA)の一種ですが、これによってアメリカとの間で協定を結べます。これは一歩前進ですし、この交渉を経験することで、次に中国と交渉をするときの力を身につけることも期待できます。
池上:トレーニングになるわけですね。
星:そしてさらに重要なのは、日本企業にとって競争の場が増えることです。日本の輸出企業は海外の企業と海外の市場で競争することで、生産性を上げてきました。これは、競争があった結果です。
池上:その競争原理を農業にも、ということですか。
星:そうです。農業の自由化はTPPで始まるわけではありません。80年代に、部分的に自由化されています。
池上:牛肉・オレンジですね。アメリカの経済が悪化した矛先が日本に向いて起こった日米経済摩擦の一端です。
星:あの後、いったい日本の酪農家、みかん農家はどうなったでしょうか。
日本のTPP参加は米国のご機嫌取りにするのであって、日本の為ではない。これ基本。参加の経緯を知るべき。(2013/07/05)