2008年のリーマンショック後、主要先進国の金融政策が大きく変わった。理想論をいえば、経済学はリーマンショックとその後の景気の状況に対し、あらかじめ処方箋を出せるようになっているべきであったが、そこまで十分に研究が進んでいなかったのが現実だった。
ただし現在では、リーマンショック直後の金融市場のパニック(経済状況から説明のつく価格形成機能の一時的停止)と、その後、欧米を中心に深刻な不況をもたらすに至った要因を解明しつつあるとともに、政策対応が適切かどうかを判断するための理論や実証研究が精力的になされてきている。ここでは、最近筆者がかかわったIMF(国際通貨基金)の金融政策に関する報告書(IMF, 2013a,b)をもとに、最近の論調を俯瞰したい。
まず、長らく忘れられてきた、パニックの際、中央銀行の果たすべき「最後の貸し手」機能の重要性を改めて認識した。すなわち、銀行取り付け騒ぎや金融市場でのパニックのような状況下では、中央銀行はできうる限りの手段をつかってそれを阻止すべきということである(He and Xiong,2012)。ただ、これはいわゆる金融政策とは別の政策目的と考えられるべきである。
金融政策に関して言えば、以前は、銀行間市場での安全かつ短期の金利をコントロールしていたが、リーマンショック以降は次の2つの点で異なるものとなった。
直接介入が効く時、効かない時
1つは、国債など安全資産の長期金利への直接的介入であり、もう1つは、民間のリスク資産の価格や金利への直接的介入である。なお、これらは日本では既に2000年代前半になされており、リーマンショック後に復活した経緯がある。
こうした政策がなぜ効果的なのか、また効果的なのであれば、なぜ以前はなされていなかったのか、との疑問がわく。実際のところ、こうした政策は以前の正常な状況では効果がなかったということが考えられる。
平時は、資金の需要側、供給側とも常によい条件を求めているため、各種金利には裁定が働き、長期金利は短期金利と密接に結びついており、またリスク資産の価格や金利もそれに人々のリスクプレミアムを上乗せしたかたちで取引されている。したがって、中央銀行が銀行間取引の安全かつ短期の金利の調整さえすれば、長期金利やリスク資産の価格や金利に影響を与えることができたのである。
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