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日本の神さま仏さまは「会社」にいる

上田紀行・東京工業大学教授と「宗教を考える」その3

2014年4月1日(火)

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池上彰の教養のススメ』4月3日店頭に!!
池上彰の教養のススメ』4月3日店頭に!!

 この連載の書籍がついに発売になります。『池上彰の教養のススメ』。2012年、池上彰さんが東京工業大学のリベラルアーツセンターの教授に就任して2年。以来、同僚である哲学者の桑子敏雄先生、文化人類学者の上田紀行先生、生物学者の本川達雄先生と一緒に、「教養」について考え抜いた本です。

 「教養」なんて役に立たない。英語だのITだのすぐに役立つ実学が大事だ!といわれて久しい――。でも、時代の変革期に「本当に役に立つ」のは、新しいものを生み出すのは、むしろ「教養」の力です。

 4月3日発売です。これを読んで、皆さんもどうぞ「教養にまみれて」ください。

(前回から読む

池上:なぜ、伝統的な宗教は、オウム真理教へ走る若者を救えなかったのか、という話を上田先生におたずねしました。 

上田 紀行(うえだ・のりゆき)
文化人類学者。1958年生まれ。東京大学教養学部文化人類学科卒業、同大学院博士課程修了。愛媛大学助教授を経て東工大へ。「癒し」という言葉を日本に広め、日本社会の閉塞性の打破を、新聞、テレビ等でも説く。近年は沈滞する日本仏教の再生運動にも関わり、ダライ・ラマとの対談も出版。東工大では学生からの授業評価が全学1位となり、東工大教育賞最優秀賞を受賞。著書『生きる意味』(岩波新書)は2006年度大学入試出題数第1位の著作となる。その他、『生きる覚悟』(角川SSC新書)、『「肩の荷」をおろして生きる』(PHP新書)、『ダライ・ラマとの対話』(講談社文庫)など著書多数。(写真:大槻純一、以下同)

上田:そもそも伝統的宗教に力がすでになかった、というのが大きいですね。伝統的な仏教界には、檀家制度があります。檀家さんが豊かになれば、お寺の実入りが増えます。戦後30年間、日本の高度成長期に檀家は破竹の勢いで増え、しかも豊かになりました。そのお布施がお寺に回ってくるわけですから、寺も豊かになります。屋根を葺き替える際には普段のお布施のほかに寄付もしましょう、という具合に。

池上:戦後の高度成長期は、お寺をも豊かにしたのですね。

上田:檀家、つまり社会の側にしてみても、生老病死の苦しみはありましたが、でも、そうはいっても豊かになって儲かればいいじゃんという楽観的な雰囲気がありました。そんな明るい高度成長期には、「生きることは一切苦であって、その苦を引き受けながら五乗の世を生きるのだ」という本来の仏教の教えは、とても暗くて教えられないし、流行らないわけです。

 だから法事の時も、お布施は十分払うから、お坊さん、お経をさっさと上げてちょっとだけいいこと言って帰ってくれ、という雰囲気に社会がなっていきました。

池上:葬式と法事のときにしかお寺と付き合わない、という素地ができあがったわけですね。

上田:もちろん、ちゃんと親鸞さんの教えを聞きたいというような人もいるわけですが、だんだん少数派になっていく。日本社会全体としては、戦後30年間くらいかけて80年代までに仏教が形骸化していったところがある。お寺は景色に過ぎないし、坊さんは葬式のときにお経を唱えてくれば良し、という存在になってしまった。

池上:高度成長期の日本には、宗教は必要なかったということですか。それが今の若者に訊ねると、「私は無宗教です」という答えにつながるのかな。

上田:いえいえ。日本にだってありましたよ、宗教。別の宗教があったんです。

池上:何ですか。

上田:会社です。会社に神や仏がいたんです。

会社教を信じれば、伝統宗教の役目はイベントだけ

上田:終身雇用で年功序列で、いったん会社に入ったら、どんなダメ社員でも給料は上がり続け、最後まで勤め上げられる。現在の生活も未来も保証してくれる。不安を解消してくれる。悪いことをしない限り、絶対に見捨てられることもない。これって、宗教じゃないですか。人間を絶対に見捨てないというのが宗教の教えだとすれば、日本的な会社は宗教だったんです。比喩でもなんでもなく、リアルに宗教的存在だったといってもいい。会社に神と仏が存在して、自分がそこに帰依しているんだったら、他に宗教は必要ないですよね。

池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト。1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。94年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説して人気に。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。2012年4月より、東京工業大学リベラルアーツセンター教授として東工大生に「教養」を教える。主な著書に『伝える力』(PHPビジネス新書)、『知らないと恥をかく世界の大問題』(角川SSC新書)、『そうだったのか! 現代史』(集英社)など多数。

池上:葬式仏教と初詣の神道と、クリスマスのキリスト教があればいい、となる。

上田:そんな豊かな戦後日本でも、会社じゃない宗教が必要な人たちもいました。たとえば集団就職で上京したひとたち。田舎から出てきて東京で根無し草になり、そこで必死に働いても貧乏でという、そういう集団を強烈に吸引したのが、当時教勢を拡大しつつあった創価学会でした。戦後、宗教的な救いが必要な人たちは創価学会のような新宗教が取り込んでいき、そうでない人たちは、会社という宗教に帰属しているから、伝統宗教そのものには何の期待もしなくなるわけです。

池上:そこでお寺や仏教は対抗措置をとらなかったんですか?

上田:坊さんたちにしてみれば、お布施は入ってくるし、世界は平穏だし、道を説く必要もないなあ、という平和に時代でもあったわけです。実は、高度成長期と並行して、檀家制度を支えてきた、家父長的な大家族が崩壊していきます。核家族化が進むからですね。そうなると、お寺を支える檀家そのものが弱体化していくし、田舎では次第に過疎化も問題になってくる。しかしこの頃はまだ寺のほうも気づいていませんでした。

 でも90年代初頭、この宗教いらずの右肩上がりの世界は壊れてしまいます。バブル崩壊で。

コメント3件コメント/レビュー

今さらになってしきりに地域などのコミュニティを取り戻そうみたいな声も上がっていますが、(伝統)宗教がそういう動きの受け皿として期待されてないのは宗教が色メガネで見られるためなんでしょうね。生活や人間関係のための哲学という位置づけならまだしも、変なストーリーを信じる義務までセットになってるんじゃ……と尻込みしてしまうのも仕方ない気がします。もっともそういうストーリーに没入する/させるほどでなければ、コミュニティづくりの原動力にはなりえないということでしょう。(2014/04/02)

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池上 彰

池上 彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト

1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。報道局主幹を経て、2005年3月よりフリージャーナリストとして活躍中。2012年4月から東京工業大学で東工大生に「教養」を教えている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

今さらになってしきりに地域などのコミュニティを取り戻そうみたいな声も上がっていますが、(伝統)宗教がそういう動きの受け皿として期待されてないのは宗教が色メガネで見られるためなんでしょうね。生活や人間関係のための哲学という位置づけならまだしも、変なストーリーを信じる義務までセットになってるんじゃ……と尻込みしてしまうのも仕方ない気がします。もっともそういうストーリーに没入する/させるほどでなければ、コミュニティづくりの原動力にはなりえないということでしょう。(2014/04/02)

「人間を絶対に見捨てないというのが宗教の教えだとすれば、」悪い事をすれば見捨てられる会社は宗教とは言えないはずです。でもキリスト教でもイスラム教でも戒律を犯せば地獄ですから、それは見捨てられたことになって、宗教じゃないとなるのかな?だとすれば、浄土宗や浄土真宗のように悪者こそ救われる宗教こそが本来の宗教ですね。(2014/04/01)

「お金儲けが心のよりどころ、という単線に、神様仏様も乗っていた」のは少し違うと思います。上田氏には見えていない弱い線が存在していると思います。日本人も意識しない原始宗教的な、日本の文化・伝統と繋がっているもの。(勿体無い、バチが当たる、因果応報、情けは人の為ならず、いただきます、米は~、等)そして、宗教が無いのに、モラルが高めなのは何故かへの仮説。ただ、現世利益追求的な即物的な考えや自分さえ良ければが強くなりつつあるのは人に余裕が無くなって来ているからもあるけれど。宗教の線が必要みたいな我田引水に繋げるのはどうかと思う。個人の自由を尊重しつつも皆の幸福の総和を上げるバランスを取るのが大儀的な目的で、そこに手段としての宗教は必ずしも必要ではない。宗教で戦争を起こせば元も子もない。(2014/04/01)

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