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日本人が満員電車を我慢できたわけ

上田紀行・東京工業大学教授と「宗教を考える」その4

2014年4月8日(火)

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池上彰の教養のススメ』発売開始!
池上彰の教養のススメ』発売開始!

 この連載を書籍化した『池上彰の教養のススメ』が発売になりました。2012年、池上彰さんが東京工業大学のリベラルアーツセンターの教授に就任して2年。以来、同僚である哲学者の桑子敏雄先生、文化人類学者の上田紀行先生、生物学者の本川達雄先生と一緒に、「教養」について考え抜いた本です。

 「教養」なんて役に立たない。英語だのITだのすぐに役立つ実学が大事だ!といわれて久しい――。でも、時代の変革期に「本当に役に立つ」のは、新しいものを生み出すのは、むしろ「教養」の力です。これを読んで、皆さんもどうぞ「教養にまみれて」ください。

(前回から読む

池上:日本企業は、「日本人が心のよりどころを失っている」、という状況に気づいているんでしょうか。

上田 紀行(うえだ・のりゆき)
文化人類学者。1958年生まれ。東京大学教養学部文化人類学科卒業、同大学院博士課程修了。愛媛大学助教授を経て東工大へ。「癒し」という言葉を日本に広め、日本社会の閉塞性の打破を、新聞、テレビ等でも説く。近年は沈滞する日本仏教の再生運動にも関わり、ダライ・ラマとの対談も出版。東工大では学生からの授業評価が全学1位となり、東工大教育賞最優秀賞を受賞。著書『生きる意味』(岩波新書)は2006年度大学入試出題数第1位の著作となる。その他、『生きる覚悟』(角川SSC新書)、『「肩の荷」をおろして生きる』(PHP新書)、『ダライ・ラマとの対話』(講談社文庫)など著書多数。(写真:大槻純一、以下同)

上田:明確に、ではありませんが、異常事態だ、ということにはかなり前から気づいています。従来の働き方が崩れ、リストラされる社員が多数出てきたり、残された社員の中からも鬱になる人が増えていますから。なんとかしなければ、と考えている経営者は少なくないはずです。

池上:上田先生のところにも相談が?

上田:この前、会社の人事担当者が集まる会合で講演をしたときに、日本社会は会社で金儲けの道しかない単線社会だ、宗教や個人の友人関係といった別の心のよりどころが存在しにくい、だから、会社社会がゆらぐと、個々の日本人も揺らいでしまうんだ。と話したんです。すると、ある会社の人事担当者が言いました。

「うちでも鬱になって会社に出てこられない社員がたくさんいます。そこで悩んでいることがあります。その社員をなんとかしようと、人事担当者が休んでいる社員を訪れてケアをしようとするんですが、まずいことに今度は人事担当者が鬱になってしまうんですよ」

池上:鬱が伝染してしまうんですね。

上田:そりゃそうです。鬱になった方も、人事担当者の方も、会社という単線にしか心のよりどころがない、という意味では同じ立場ですから。鬱になった方を通じて、人事担当者の方はむしろ、自分のよりどころのなさに気づいてしまう。

池上:どうしたらいいんでしょう。

上田:鬱の社員を救うのは、会社の人ではありません。「会社で出世しなくたって、うまくいかなくたって、生きる価値は誰にでもある」と、教えてくれる存在です。間違いなく会社の外の人です。人事担当者に、外部のカウンセラーや精神科医や宗教者の役目を負わせては鬱が伝播するだけです。

池上:今までの話からすると、本来はここで宗教者の登場となりますね。神父さんやお坊さんのような。

上田:そう。会社の線とは別の、もう1本の線のほうで救うべきです。その人事担当の人たちに、「会社に出られなくなった人が地元で宗教者に救われて会社に戻ってきてくれたら、本当に皆さんの肩の荷がおりるでしょう?」と聞いたら、みんな「ぜひそうなってほしい!」と言うわけです。しかし…

池上:しかし?

単線を突っ走る人からは、逃げ場は「ムダ」に見える

上田:一方で、会社が上手くいっているように見える時には「宗教なんか必要ないよ」とみんな思っているわけですよ。つまり、日本には、私たちを支えるもう1本の線が存在しない……。結局のところ、強靱に見える日本社会は経済状況が悪化するとこんなに弱いということなんです。しなやかな強さを欠いている。単線社会の構造的な問題ですね。

池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト。1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。94年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説して人気に。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。2012年4月より、東京工業大学リベラルアーツセンター教授として東工大生に「教養」を教える。主な著書に『伝える力』(PHPビジネス新書)、『知らないと恥をかく世界の大問題』(角川SSC新書)、『そうだったのか! 現代史』(集英社)など多数。

池上:産業医ならぬ、産業僧を用意したらどうですか。

上田:そんなこと言う人初めてですよ(笑)。なかなかいいアイデアとも思うけど、結局、再び会社の中に仏様を呼び戻し、「徳を積むにはノルマを達成する必要がある」と単線化に拍車がかかるだけになるかもしれません。やっぱり会社の外側で解決しないと。

池上:子どもの世界もそうですね。学校でいじめられると逃げ場がない。子どもには学校しか世界がないからです。でもそれこそ、複線的な場所が用意されていて、たとえばアジール(避難地)として寺子屋のようなところでお坊さんと話ができたりすれば、ああこの世は学校だけが世界じゃないんだ、と救われますよね。

上田:東大に入ったばかりの10代の僕も、試験で効率よく点数をとればいい、という単線の人生をひた走って壁にぶつかった(その1参照)。このままでは死ぬという直感があったので、インドへ行って人生を複線化してきたわけです。ただね、人生を複線化する、というのは、単線化した人生をひた走る人間から見るとムダなんですよ。

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「日本人が満員電車を我慢できたわけ」の著者

池上 彰

池上 彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト

1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。報道局主幹を経て、2005年3月よりフリージャーナリストとして活躍中。2012年4月から東京工業大学で東工大生に「教養」を教えている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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