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第1章 石油街道 (1)

2006年4月3日(月)

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 真新しいエアバスA320型旅客機は、漆黒の闇の中で徐々に高度を下げていた。ロンドン・ヒースロー空港を飛び立ち、欧州大陸の地中海沿岸をなぞるように南東の方角に飛行を続けてきた。キャビン内は高速で風を切る機外のノイズで満ちている。

 やがて両翼の下から車輪を出す鈍い機械音が聞こえ、機は木の葉のように高度を落として行く。間もなく、ブリティッシュ・メディタレニアン航空6701便は、接地の衝撃と共に機体を軋ませた。

イラスト1 旧財閥系の大手総合商社、五井(いつい)商事の英国現法で石油輸入を担当する金沢明彦(かなざわあきひこ)は、読んでいた本を閉じ、小判形の窓の外に視線をやった。

 暗い滑走路の彼方に、白い空港ビルが幻のように浮き上がっていた。ビルの手前には、ミドル・イースト航空の白いエアバス機。尾翼に国のシンボル、緑のレバノン杉が描かれている。空港の外縁に沿って一定間隔で建ち並ぶ照明塔から、光がシャワーのように降り注いでいた。鈍いオレンジ色の光は、いかにも動乱の中東らしい。ここはかつて連合赤軍のメンバーたちが潜んでいたレバノンの首都ベイルートだ。

 上空は真っ暗で、星は見えない。

 視線を下げると、くすんだ灰色の滑走路。こぼれたジェット燃料で、あちらこちらに黒い染みができている。機体のそばで、作業服姿の男たちが黙々と荷物の積み下ろしをしていた。全員が黒い髪、黒い口髭。

 深緑色の迷彩服を着た兵士が1人、飛行機のタイヤのあたりで周囲に油断のない視線を注いでいる。黒いベレー帽に黒い手袋。広い背中にはマシンガン。

 夜の帳の中に8月の中東のうだるような空気が淀んでいるような光景であった。金沢は、窓外の暗い風景から再び機内に視線を戻す。

ビジネス・クラスのキャビンは白い蛍光灯の光が満ちていた。金沢は手にした本を再び開く。『石油の世紀』という分厚い本だった。マサチューセッツのケンブリッジ・エネルギー研究所のユダヤ人、ダニエル・ヤーギンが、7年の歳月をかけて書き上げたピューリッツアー賞受賞作だ。

 19世紀後半から今日まで、人類が石油という怪物に翻弄されてきた歴史が、壮大な叙事詩として描かれている。本のカバーは、ロスチャイルド家の富の源泉となったアゼルバイジャンのバクー油田。グラビアには、コーカサスの石油資源支配の野望を胸に地図を凝視するアドルフ・ヒトラーや、東インド諸島の石油を確保するため真珠湾を攻撃した山本五十六提督の写真が掲載されている。

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「第1章 石油街道 (1)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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