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第2章 イラク原油(3)

2006年5月15日(月)

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 翌日の午前中、金沢は1人で別の国営公社を訪問した。

 イラク石油輸出公社であった。英語名は、State Oil Marketing Organization、略称SOMO。石油輸出を一手に扱う、サダム・フセインのマネー・マシーンだ。

 五井商事は、SOMOに昔から深く食い込んできた。1970年代後半、肩痛で苦しんでいたSOMOの総裁を、赤坂の東洋鍼医に3日間通わせて治し、「この医者をイラクに連れて行きたい!」と感激させたこともある。 

 SOMOのビルは、SCOPと同じ敷地内に並んで建っていた。ビルは、五井商事が清水建設と組んで1980年に建設したものだ。

 1階正面に、巨大な伊万里焼の壷がガラスケースに展示してある。ビルの新築祝いに、五井商事が日本の石油会社数社と一緒に寄贈したものだ。

 金沢は、過去2年間、ここに何度も足を運んだ。

 石油輸出が再開されると噂され始めた1995年頃から、社員が1~2ヶ月交代でバグダッドに張り付き、SOMOに日参して「是非、うちに売って下さい」と訴えていた。

 その日、金沢は総裁室に案内された。
 (普段は、会議室なんだが……)

 1994年以来、SOMOの総裁の座にあるサダム・ジブン・アル・ハッサンは、サダム・フセインの従兄弟。大統領の故郷であるティクリート出身だ。石油のことは何も知らないが、サダム・フセインの意向を受け、原油の販売先を決めている。

 昨年(1996年)12月に始まった「Oil for Food Programme(石油・食糧交換計画)」は、石油の輸出代金の使い途は国連が管理するが、石油を誰に売るかはイラク政府、すなわちSOMOが自由に決められる。

 総裁室は2階にあった。手前に応接セット、奥に執務机。サダム・フセインの肖像画とイラク国旗。政府機関の中では例外的に、衛星放送が入る大きなテレビや、国際電話が備えられている。

 スーツ姿の総裁は中背の小太り。頭頂部の頭髪は薄く、鼻の下に髭をたくわえた中年男だ。どことなくサダム・フセインを思わせる強面で、ほとんど笑わない。

 「この度は、石油を売っていただき、有難うございました」

 握手の後、スーツ姿の金沢が切り出した。「おかげさまで、日本の石油会社も大変喜んでいます。私どもは、日本が貴国の原油の安定消費地になるよう、引き続き努力して行きたいと思っています」

 日量4万バレル・期間半年のターム契約は、今年9月に更新される予定だ。 
 金沢の言葉を、総裁の傍らにすわった原油第二部長がアラビア語に訳す。

 SOMOの原油販売部門は一部と二部に分かれ、日本やアジア諸国は二部の担当。部長は常日頃、自分たちの意向がまったく省みられず、いつも政治的圧力で原油の販売先が決められると嘆いている。

 総裁がアラビア語で何かいい、それを原油第二部長が英語に訳す。巻き舌の強い、アラブ訛りの英語である。

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「第2章 イラク原油(3)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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中谷 巌 「不識塾」塾長、一橋大学名誉教授