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第3章 イラン巨大油田(3)

2006年6月5日(月)

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 その年(1998年)の暮れ――

 「……エネ庁の石油部にバランス・シートを読める人間がいたら、大臣に決算書を全部渡すなんて、馬鹿なことはしなかったろうにな」

 ベーコンエッグにナイフを入れながら、ワイシャツ姿の十文字が苦々しげにいった。スーツの上着が椅子の背もたれにかけてある。

 艶やかなマホガニー材が壁や天井にふんだんに使われたレストラン。観葉植物や蘭がさりげなく配置されている。

 「まあ、『堀内論文』が、政治家に一切言及してなかったのが、不幸中の幸いだったよ」

 「そうっすな。日中石油開発とかジャパン石油開発とか、不良化した案件はほとんど政治家がらみですからな」

 テーブルの向かいにすわったトーニチの亀岡吾郎は、真っ白なワイシャツにブルーのエルメスのネクタイ。去る4月に帰国し、本社でエネルギー部門などを担当する常務になった。エジプト・アレキサンドリア市の製鉄所プロジェクトを成功させた鉄鋼部門の同期入社の男に競り勝ってのトップ昇進だ。

 「公団がらみのプロジェクトで、政治家が受け取ったコミッションを暴露したら、一大疑獄事件に発展してたぜ」

 2人は、新宿新都心にある外資系ホテルのレストランで朝食をしていた。客は外国人ビジネスマンが中心。密会の場所にはもってこいだ。

 「まあ、狂人もやっと出てったし、ちょっとはマシになるだろう」

 通産官僚たちは、堀内光雄を陰で「狂人」呼ばわりしていた。その堀内は、石油公団の実態をマスコミにリークした翌月の7月30日、橋本内閣退陣・小渕内閣発足に伴い、通産大臣を退任した。

 「で、イランで面白い話があるんだって?」
 十文字が銀縁眼鏡の下の小狡そうな目で亀岡を見た。

 亀岡は、思わせぶりに頷き、コーヒーを一口飲む。
「どうやら、巨大油田が見つかったらしいですな」

 「ほーう……どれくらいの埋蔵量なわけ?」

 「260億バレル」

 「260億バレル!? そりゃでかい!」

 イランは世界第5位の石油埋蔵量を誇る。これまで確認されているのは930億バレル。新油田はその4分の1以上のサイズである。

 「どんな油?」
 十文字が顎をしゃくる。

 「重たいやつですな。APIで10の後半から20の前半ってとこです」

 API度は米国石油協会(American Petroleum Institute)が定めた原油と石油製品の比重を示す単位。水の比重を10とし、数値が高いほど軽質。

 原油の場合、39度超が「超軽質」、34~38度が「軽質」、29~33度が「中質」、26~28度が「重質」、26度未満が「超重質」で、軽いほどガソリンや灯油など高価な製品留分が多く、価格も高い。

 「サルファー(硫黄分)は?」

 「イラニアン・ヘビー並みでしょう」

 イラン原油には「イラニアン・ライト」という中質油と「イラニアン・ヘビー」という重質油の2つがある。前者は1.44パーセント、後者は1.55パーセントの硫黄分を含む。硫黄分が1パーセント以下の原油を「スウィート」、それより硫黄分が多い原油を「サワー」と呼ぶ。

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「第3章 イラン巨大油田(3)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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