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第4章 サハリン銀河鉄道(1)

2006年6月26日(月)

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 東京に帰任した翌月の1999年5月、金沢は札幌からサハリン(旧樺太)に向かう飛行機の中にいた。

 機体は旧ソ連製のアントノフ24型。自動操縦装置はなく、40人乗りの小型プロペラ機にパイロット2人、機関士1人、ナビゲーター1人の計4人が乗り込んでいる。キャビン内はプロペラの騒音がもの凄く、何かの実験室の中にでもいるようだ。

 金沢の隣りに、薄手のセーターを着た30代前半の日本人男性がすわっていた。日本輸出入銀行の営業第四部でサハリン・プロジェクト向け融資を担当している人物だ。プロジェクトが順調に進行しているか、現地実査に行く。

 離陸して30分ほどすると、機内食サービスが始まった。

 「なんか、食べづらいですね」

 「ええ」

 金沢と輸銀の担当者は苦笑を交わした。

 北海道製のサンドイッチは美味だが、飛行機が小刻みに振動しているので、プラスチックのテーブル上をコーヒーカップが紙相撲のように動く。

 間もなく、機は宗谷海峡の青い海の上に抜け出た。

 海上を30分ほど飛び続けると、眼下に茶色いごつごつした島影が見えてくる。サハリン島だ。島の水際が打ち寄せる浪で白く縁取られている。

 「すごい森林ですねえ」
 輸銀の担当者が、島全体を覆う鬱蒼とした原始の森を見て嘆息した。

 日露戦争後のポーツマス条約(1905年)で島の北緯50度以南が日本に割譲され、第2次大戦終了まで日本領だった。当時、日本の製紙会社が島内各地に工場を建て、豊かな森林資源を利用した。

 新千歳空港を離陸して1時間半後、サハリン航空152便は、州都のユジノサハリンスク空港に着陸した。空港には、ロシア国旗と同じ白、水色、赤の3色に塗られたサハリン航空のアントノフ7、8機やウラジオストク航空のツポレフが駐機しており、風景は完全にロシアであった。

 入国審査と通関を経て到着ホールに出ると、中年ロシア人男性が2人の名前を書いたプラカードを掲げていた。五井商事、東洋物産、アングロ・ダッチ石油が出資するサハリン・リソーシズ・デベロップメント社の運転手だった。

 時差が日本より2時間先のサハリンは午後3時を回ったところ。気温は10度ちょっとで、山々の頂には白い雪が残っている。

 空港からユジノサハリンスク市街まで車で約20分ほどだった。

 その日の晩、2人はユジノサハリンスク駅に向かった。市街地の西にある駅舎は、2階建ての典型的な旧ソ連風建築。刑務所のような灰色のコンクリート造りである。屋根は鉛色のトタン葺きで、正面中央の大時計の針は2本ともどこかに消え失せている。

 がらんとした待合ホールで、一般旅行者や迷彩服の兵士たちがプラスチックの椅子にすわっていた。厳しい北国の暮らしと労働で、人々の表情や服装はくたびれている。

 ロシアの鉄道切符はすべてモスクワ時刻で記されているので、ホールの壁には時差7時間遅れのモスクワ時刻の時計が掛かっていた。

 ホームに出ると、9両編成の「サハリン号」が待っていた。

 グリーンとグレー2色の車体の寝台列車。TG16型ディーゼル機関車に牽引され、北サハリンの石油・ガス開発の拠点ノグリキまで、613キロを14時間かけて走る。

 出発の30分ほど前から乗車が始まり、2人は6号車に乗り込んだ。

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「第4章 サハリン銀河鉄道(1)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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