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第4章 サハリン銀河鉄道(4)

2006年7月17日(月)

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 その年の秋――

 トーニチ常務の亀岡吾郎は、テヘランに向かうルフトハンザの機内にいた。フランクフルトを夕方6時半に飛び立ったエアバスA340型機は、夜の闇の中を順調に飛行を続け、イラン領空内に入っていた。

イラスト ルフトハンザは亀岡吾郎のお気に入りだ。常々「最も安全で、最も快適な航空会社はルフトハンザ」と公言し、中近東に行くときは、いつもフランクフルト経由である。

 亀岡の隣りに、白いワイシャツ姿の男がすわっていた。大柄なファイト溢れる商社マンで、40代後半の割にはかなり若く見える。半年前にトーニチのテヘラン事務所長に任命された男であった。亀岡同様、石油部門の出身だ。

 「……まあ、カフジの延長がほとんど絶望だから、通産省も必死だよ」
 そういって亀岡は、白い磁器のカップのコーヒーをすすった。

 アラビア石油のカフジ油田の採掘権は、来年(2000年)2月27日に期限が切れる。通産省は契約延長に躍起で、通産大臣、通産審議官、資源エネルギー庁長官、経済協力部長、エネ庁石油部長などがサウジアラビア詣でをしている。しかし、サウジ側が、見返りとして採算性のない鉱山鉄道への20億ドルの投資を要求するなど、極めて厳しい情勢にある。

 「年末に深谷通産相がまたサウジに行くらしいですね」
 テヘラン事務所長がいった。

 「いくらサウジ詣でをしたって、無理なものは無理だ」
 亀岡がにべもなくいった。

 「十文字は、早くも前任者に責任をおっかぶせようと画策してますよ」

 「あの男らしいやり口だな」

 十文字一(ともんじはじめ)は、最近、資源エネルギー庁の石油・天然ガス課長になっていた。日本のエネルギー政策を一手に握る要職で、産油国との対政府間交渉では矢面に立つ。

 「カフジの失敗を他人のせいにして、自分はイランで日の丸油田を獲得しましたとぶち上げたいんだろう」

 「役所っていうのはいい加減なもんですね。ディール・ダン(取引成立時)の派手さだけで、あいつはできる男だとなって、後で案件が失敗したときは、張本人はとっくに別の部署に異動して、涼しい顔で出世して行くんですから」

 テヘラン事務所長の顔にうっすらと軽蔑の色が浮かんでいた。

 「ところで、十文字の英語は、大丈夫なんですか? こないだテヘランで話してるのを聞きましたが、かなりひどいですね」

 「入省後に、プリンストンの大学院に留学してるらしいんだがな」

 東部アイビーリーグの名門校だ。キャンパスはニュージャージー州にある。

 「卒業してるんですか?」

 「一応、そういうことになってるようだな。俺も卒業証書を見たわけじゃないが」

 「大丈夫ですかねえ?」

 「今回は、サイン・ボーナスの輸銀融資の額をいうだけだからな。……プリンストンに留学してるんだから、数字くらいはいえるだろう」

 亀岡の皮肉に、テヘラン事務所長が苦笑した。

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「第4章 サハリン銀河鉄道(4)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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