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第5章 ハタミ大統領来日(2)

2006年8月21日(月)

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 その年の夏――

 金沢は、五井商事の常務(燃料本部長)の鞄持ちで、ユジノサハリンスクに出張した。上司のサハリン・プロジェクト部長も一緒だった。

 3人は、共産党大通り(カムニスティーチェスキー・プロスペクト、旧名・神社通り)の中ほどで黒塗りのトヨタクラウンを降りた。

 「なかなか立派な建物じゃないか」

 灰色のビルを見上げて常務がいった。5階の屋上に、白、水色、赤のロシア国旗がへんぽんと翻っていた。

 正面入り口脇にサハリン州政府を示す

 「АДМИНИСТРАЦИЯ САХЛИНСКОЙ ОБЛАСТИ]」

 の文字と、双頭の鷲がある金色のプレート。

 「土曜日も働いているとは、相当なワーカホリックだね」

 「彼はサハリンをブルネイにしようという野望を持ってますから」
 とサハリン・プロジェクト部長。

 正面入り口を入ると、エックス線検査のゲートがあり、緑色の制服を着た若い男の警備員がいた。休日のビル内は、人影がほとんどない。

 3人は、サハリン州知事イーゴリ・パヴロビッチ・ファルフトディノフ(Фархутдинов)に、執務室で迎えられた。四角い顔、広い額、大きな鼻。やや灰色がかった大きな目は強い意志の光を宿している。年齢は50歳。知事に就任して6年目で、全身から自信と精気が発散していた。

 「Так, Вы приехали сюда как член японской экономической делегации?」
(タク、ヴィ・プリエハリィ・スュダー・カク・チリェーン・イポンスコイ・イカノミーチェスコイ・デェレガーツィ?=今回は、日本の経済団体のミッションで来られたのですな?)

 ソファーにすわった知事がいった。見かけ通りの太い声。

 傍らにすわったロシア外務省の男性通訳が日本語に訳す。

 「はい。投資促進ミッションということで、州当局との会議の他に、水産加工場や発電所を視察させてもらいました」

 常務が答え、灰色のスーツ姿の知事が頷く。

 「ところで、ノグリキの発電所の件は、どうなのかね?」
 しばらく四方山話をした後、知事が訊いた。

 知事は、モリクパックで生産される原油とともに噴出する随伴ガスを、北サハリンのノグリキにある発電所で使えるようにしてほしいと要望していた。

 「検討したのですが……」
 事前に説明を受けていた常務が、残念そうな顔でいった。

 「率直に申し上げて、難しいです。随伴ガスは油層に戻さないと、圧力が低下して採掘量が減ってしまいます」

 知事は顎の下を手で触りながら、渋い表情。

 10月に再選を賭けた知事選を控えており、州民の目に見える成果を示したいと切望している。

 「その代わりといってはなんですが、年末に予定されていた地下資源利用料を来月、前倒しして払わせていただきます。それから、漁民への補償金は今月払います」

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「第5章 ハタミ大統領来日(2)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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