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第6章 豊饒のオホーツク海(1)

2006年9月25日(月)

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 十文字が越前の故郷に帰省していた頃、金沢も妻と小学校6年生の娘を連れ、北海道の網走に帰省した。イランのオイルスキームが決着したので、数日間の休暇を取った。

 羽田空港から早朝の便で飛び立ち、女満別までは1時間半ほどのフライト。

 ボーイング737型機が白と黒のモノトーンの大地に向けて降下を始めたとき、氷結して白い雪に覆われた能取(のとろ)湖が見えた。

 女満別の空港ビルは真新しい3階建て。子供の頃食べた「流氷飴」の看板が、荷物受け取りホールの壁にかかっていた。

 到着ホールで、ダウンジャケットを着た金沢の兄が出迎えに来ていた。

 「悪いねえ」

 「なーんもだ。冬はやることねえんだから」

 兄は家業を継いで、ホタテ貝の漁師になっている。14トンの船を所有し、5人の乗組員を使う「親方」だ。

 空港ビルを出ると、外気は頬を切るような寒さだった。気温は零下3度。

 金沢たちは兄のワゴン車に乗り込んだ。

 空港から網走の町まで約20キロメートル。道は白く凍りついている。

 国道39号線の両側は、広々とした牧草地、小麦やビート(砂糖大根)などの畑。今は真っ白な雪に覆われている。鬱蒼としたエゾ松の林、200頭ほどの牛が入っている巨大な牛舎、サイロ、民家。

 5分ほど走ると、左手の林の先に凍った大きな湖面が見えてきた。

 「ああ、網走湖だ……」
 助手席にすわった金沢が、ほっとしたような声を出した。

 網走出身者が故郷に帰ってきたことを実感する風景だ。

 「あれ、何してるの?」
 後部座席にすわった金沢の娘が湖の方を指差した。

イラスト 凍った湖面に赤や、黄、水色など、色とりどりの小さなテントが張られ、ヤッケやダウンジャケットを着た人々があちらこちらで何かしている。

 「あれはね、ワカサギを釣ってるのよ」
 娘の隣りにすわった妻がいった。

 「そうだ、明日はワカサギ釣りに行こう」
 ハンドルを握った金沢の兄がいった。

 「その場でから揚げにして食うと、うめえどお」

 その言葉に、娘ではなく、金沢と妻が思わず唾を飲み込んだ。

 市街に入る手前に、網走刑務所が見えた。赤茶色の煉瓦壁。バグダッド市街の手前にある陰惨なアブグレイブ刑務所とは比べ物にならない近代的な建物だ。

 間もなくJR網走駅が右手に見える。

 市の人口は約4万2000人。能取湖、サロマ湖、網走湖、藻琴湖など、網走国定公園指定区域に周囲を囲まれた自然に恵まれた土地柄である。市内を貫流する網走川は、秋になると産卵のために遡上してくる鮭や鱒で溢れる。

 鉄道よりも国道が先にできたため、商店街はJR駅から1.5キロほど東の国道沿いにある。

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