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第7章 メキシコの幻想(3)

2006年11月20日(月)

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 大晦日――

 東京は朝から快晴で、寒さの中にも明るさのある年の瀬となった。

 資源エネルギー庁の十文字は、霞が関に近い料理屋の一室で、床の間を背にあぐらをかいていた。

 目の前にデザートのイチゴと杏の小皿が置かれていた。

 「……まあ、調査費用は年間20億円くらいってとこかな」

 ワイシャツ姿の十文字は、得意げな顔でタバコをふかした。

イラスト 銀縁眼鏡をかけた小さな両目の下に、くっきりと隈ができていた。仕事納めは28日だったが、十文字はおかまいなしに働き、部下をどやしつけて出勤させていた。

 「生産開始はいつ頃になりますか?」
 縦長のメモ帳を手にした若い新聞記者が訊く。年齢は30代そこそこ。紺色のスーツにネクタイ姿。

 「目処は5年後だ」

 「生産量は?」

 「200万BD(ビーディー、日量200万バレル)」
 十文字は傍若無人に煙を吐く。

 「200万BD! ……すごい量ですねえ」

 「埋蔵量七百億バレルの巨大油田だからな」

 若い新聞記者は大きく頷きながら、熱心にメモを取る。

 「日本の油はさ、中東依存度が高すぎるんだよな」
 十文字は顔を上向け気味にして、相手を見下したように喋る。
 「順調に商業生産に漕ぎつけられれば、日本の全自主開発原油に匹敵する量になるよ」
 新聞記者がメモから顔を上げた。

 「ただ、今回獲得できるのは、開発調査権であって、必ずしも採掘権獲得が約束されたものではないと思うんですが、この点はどうなんでしょうか?」

 「それはねえ、地面のことを知らない人の言葉だな」
 十文字が口調を荒げた。
 「自分の心臓を手術した医者は外せないだろ?」

 「はあ、そうですね」

 「それと同じだ」

 十文字は灰皿でタバコをもみ消す。
 「地面の中のことを知った人は外せないんだよ」

 記者は頷いて、メモを取る。

 「日本のオイルマンを育てるにも、これはいいプロジェクトになるよ」

 十文字は、目の前のイチゴに小さなフォークを突き立てる。

 「石油公団にも大きな仕事ができて、経産省の上の人たちも、十文字さんには感謝するでしょうね」
 記者がおもねるようにいった。

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