東芝は4割を出資するグループ会社、東芝セラミックスの保有株をユニゾン・キャピタルと米カーライル・グループら投資ファンドにTOB(株式公開買い付け)などを利用して売却する。東芝セラミックスの経営陣によるマネジメントバイアウト(MBO)の一環で、TOBの完了時期は12月4日の予定だ。投資予定額が600億円を超えるこのMBOは、今年に入ってからは、すかいらーくの非公開化(2565億円)に次ぐ規模の大型案件である。
今回のようなニュースが違和感なく受け入れられるほど、企業買収を生業とするバイアウトファンド(注釈:投資家から集めた資金を企業に投資し、投資先企業の経営に関与して企業価値の向上を図った後に、売却して利回りを得ることを目的とするファンド)の存在が我が国において定着したことは、黎明期に業界に身を置いていた者としては感慨深い。
私が米リップルウッド(現RHJインターナショナル)に入社した2001年当時には、日経ビジネス本誌が「ハゲタカか、救世主か?」というセンセーショナルなタイトルで特集記事を組んでいたことに象徴されるように、世間はバイアウトファンドをどのような存在として取り扱えばいいのか分からず、困惑していた。それがこの5年間で、どれだけ変わったことか。
東芝セラミックスは今後、半導体ウエハー製造の研究開発や設備強化のために長期にわたって多額の資金を投下する計画で、「短期的な業績変動にとらわれず中長期的な観点から企業価値を向上させることができる体制を構築する」ことをファンド主導の非公開化の狙いとしている。業界関係者の間では、景気循環の変動幅が大きく、多額の設備投資が必要であり、フリーキャッシュフローが安定しないと考えられている半導体関連事業の大型バイアウトが成功するか、注目されている。
このように、バイアウトファンドは中長期的な企業価値向上を目指すうえで望ましいパートナーである、という認識が固まりつつある。
しかし、彼らは本当に中長期的な投資家と言えるのだろうか?
投資ファンドの先進市場である米国に目を向けると、ここ数年、バイアウトファンドによる超短期の投資回収事例が目立っている。1年以内に数十億ドルもの資金を回収している事例があり、中長期的な投資家としての彼らの位置づけを疑問視する声が上がっている。
貪欲な投資資金回収の実態
例として、11月初めに発表された野村ホールディングス(8604)による機関投資家向け委託電子取引サービス大手の米インスティネットの買収がある。野村は10億ドルを投じてインスティネットを手に入れることで、ヘッジファンドなどグローバルな機関投資家向けに高付加価値サービスを拡大していくとされている。
このニュースは、我が国では「好調な日本企業による米国企業の買収」といったコンテクストでとらえられたようだ。しかし、米国の金融業界で話題になったのは、インスティネットが今から1年も満たない2005年12月に、わずか2億ドルで経営陣とバイアウトファンドの米シルバーレイクパートナーズに買収されたばかりだったことである。
野村は事業上のシナジーが見込めるとしてプレミアムを乗せて10億ドルを払うのだろうが、これによって、シルバーレイクは1年足らずで5倍もの価格で売り抜けることになる。これにはファンド先進国の米国でも驚きの声が上がっている。
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