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第8章 ユダヤ人ロビイスト(1)

2006年12月4日(月)

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 3月も押し迫ったある日――

 丸の内2丁目にある五井商事東京本社は、ランチタイムだった。

イラスト 社員食堂は地下1階。窓がない講堂のような空間である。入り口近くの壁際に、食事受け渡しのカウンターとレジが並んでいる。無数の社員たちが、トレーに載せた食事を運んだり、社員カードで支払いをしたり、一面に並んだテーブルで食事したりしていた。

 「……昨日、社長のところに十文字から電話がかかってきたそうだ」

 ネームプレートをワイシャツの首から下げたサハリン・プロジェクト部長が、月見蕎麦に七味をふりかける。

 「おたくの常務じゃ話にならん、ですか……」

 向かい側にすわった金沢は、呆れた表情でラーメンをすすり始める。なるとと支那竹が載った和風ラーメン。

 「パーティーなんかで知り合った各社トップとのコネを利用して『おたくの常務じゃ話にならないから担当を替えてくれ』とねじ込んでくるのは奴の常套手段だからな」

 「確かに、産油国の大使主催のレセプションや石油会社のパーティーでは、よく十文字を見かけますね」

 「学閥も閨閥もない男が必死で突っ張ってるのかと思うと、多少哀れな気もするよ」

 部長は箸を割って、蕎麦をすすり始める。

 「で、社長は何と答えたんです?」

 「わが社としては、現状ではイランの油田開発に投資する考えはない、とはっきり答えたそうだ」

 十文字が五井商事の社長に電話してきたのは、優先交渉権を獲得したイランの巨大油田開発に、五井商事をひっぱり込もうとしてのことだった。

 「十文字は何と?」

 「そんな風に政府の政策に非協力的じゃあ、今後おたくの開発案件にJBICや(石油)公団の金はつけられませんなあ、と捨てゼリフを吐いたそうだ」

 「政府の政策に、じゃなくて、俺の出世に、でしょうね」

 2人は苦笑する。

 「しかし、十文字・亀岡のコンビは、他社をひっぱり込もうと必死のようですね。こないだも十文字がテヘランで各商社の所長を個別に呼びつけて『お前のところはイラン・ビジネスをやる気がないのか!?』と恫喝したらしいですよ」

 「まあ、インペックス(国際石油開発)がやるにせよ、石油資源開発がやるにせよ、彼らとトーニチだけじゃ無理だろう」

 国際石油開発も石油資源開発も、経済産業大臣が筆頭株主で、経産省OBがトップを務める同省の「植民地」だ。

 「新聞に、トタールが入るとか、ペトロナスが興味を示してるとか出てますけど?」

 「ほとんどガセだろう」
 部長はにべもない。

 「トタールなんか、『地層データの分析評価とか、日本側を手伝う程度のことは最低限の礼儀としてやるかもしれないが、出資して参加するなんてことはまったく考えていない』と、トップがはっきりいってるそうだ」

 「機器売り同然の『バイバック』じゃ、誰も元気はでませんよね」

 金沢の言葉に部長が頷き、蕎麦をすする。

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三品 和広 神戸大学教授