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第8章 ユダヤ人ロビイスト(7)

2007年1月15日(月)

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 英国時間で夜中の12時15分頃、降船準備のアナウンスがあった。3人は腕時計の針を1時間進める。欧州大陸時間午前1時40分、「プライド・オブ・バーガンディ」号は、フランス・カレー港に接岸した。

 カレーからは高塚がハンドルを握った。金沢は後部座席で休息である。

 港の周辺は照明が少なく、ゴーストタウンのようだった。

 フランス人女性が、フランス語の標識を見ながら、高塚にハイウェーまでの道を示す。

 間もなく車は、A16に乗った。片側3車線の広々とした高速道路だ。英国を走っていたときに比べ、自動車の数は少ない。暗い道の彼方に、4~5台の赤いテールランプがちらちら動いているだけ。右側通行なので、対向車線のヘッドライトは左側に変わった。

 間もなく、金沢は眠りに落ちた。

 道路に小さな凸凹があり、車は小刻みに揺れ続けた。

 再び目覚めたとき、時刻は午前3時40分になっていた。瑠璃色のフォードは、アントワープの少し手前に差しかかっていた。アントワープは、ベルギー第2の都市。人口約46万人で、海港、ダイヤモンド取引、フランドル美術などで知られる。車の左手の遠くに、高い塔が見えた。高さ123メートルのノートルダム寺院の尖塔だ。高層ビルや、夜空に炎を赤々と燃やしている煙突も見える。

 「高塚さん、大丈夫ですか?」
 金沢は後部座席から身を乗り出した。

 「うん」
 高塚が、前方を向いたまま返事する。

 「次のパーキング・エリアで交代しましょう」

 「そうだな」

 車は片側3車線の暗いハイウェーを、かなりのスピードで走っていた。

 「高塚さん」

 「なに?」

 「イブラヒムを思い出しますね」

  高塚が笑った。

 5年前の8月に、イラクに一緒に出張したとき、片道1000キロの砂漠のハイウェーを運転した「炎のヨルダン人ドライバー」である。

 「あいつまだやってるんですかね?」

 「やってるんじゃないの」

 車はアントワープ郊外を通過し、A1に入った。

 「Breda 40(ブレダまで40キロ)」という標識が現れた。英国の距離の表示はマイルだが、欧州大陸ではキロメートルである。道路脇の暗いパーキングエリアに、大型トレーラーなど十数台が停車していた。人の動く気配はなく、運転手たちは車中で眠っているようだ。

 高塚がトレーラー脇の道端に車を停め、金沢と交代した。金沢はすぐに走り出す。

 フランス人女性が引き続きナビゲーターで、高塚は後部座席に移った。

 雨が降り始めた。フロントグラスが雨滴で曇り、金沢はワイパーを動かす。前方の灰色の路面が濡れて、あっという間に黒に変色し、街灯の光を照り返す。

 「まだ暴風雨の影響が残ってるのかなあ」
 後ろの高塚が独りごちた。

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「第8章 ユダヤ人ロビイスト(7)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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