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第9章  雪の紫禁城(2)

2007年1月29日(月)

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 翌年(2003年)2月上旬――

 夕暮れのモスクワは零下10度に凍りついていた。

 モスクワ川を挟んでクレムリン宮殿の対岸にある、バルチュグ通り(ул. Балчуг)1番地のケンペンスキー・ホテル前に、1台の黒塗りのリムジンが到着した。

 後部座席のドアを開け、凍った道に降り立ったのは、50代後半のイギリス人。肉付きがよく、頭頂部は禿げ上がり、金縁の眼鏡をかけていた。落ち着いた物腰は、医学部の教授とでもいった風格。革の手袋をした手に黒いアタッシェ・ケース。

 反対側のドアから、カシミヤのコートを着た中年のオランダ人が降りた。アングロ・ダッチ石油のロシアにおける探鉱・開発部門の責任者だった。

 茶色い石造り、7階建てのネオ・ロシア洋式のホテルは、1898年の建築。ソ連時代は「ブカレスト・ホテル」と呼ばれていたが、1989年から8500万ドルを投じて全面改装された。

 「ウェルカム、サー」

イラスト 磨き上げられたロビーのアーチ型レセプション・カウンターで、黒い制服のロシア人女性が2人を迎えた。

 「クレムリン・スイートに2泊でございますね?」
 クレムリン宮殿の聖ワシリー寺院が目の前に見える特上の部屋だ。

 壮年のイギリス人はうなずき、宿泊票に記入する。

 「ファックスが届いております」
 ロシア人女性が1通の封筒を差し出した。

 イギリス人はペンを置き、中の書類を検(あらた)める。

 「ファー・イースト(極東)から朗報だ」
 微笑を浮かべ、傍らのオランダ人にファックスを手渡した。

 「おお、東京ガスがついに……!」
 オランダ人の顔が上気した。

 東京ガスが、サハリン・リソーシズ社のLNG購入に基本合意したという報せだった。2007年からの20年契約で、引取り量は当初年6.5万トン、その後、徐々に増量し、2014年以降は毎年100万トンを購入する。

 「チューブ・エレクトリック(中部電力)やTEPCO(東京電力)とも近々基本合意できるようだな」

 オランダ人が頷く。

 「明日の話し合いも、順調に行けばいいが」

 イギリス人の男は宿泊票の記入を終え、カード式のルームキーを受け取った。

 「会長、こちらです」
 オランダ人が、イギリス人をエレベーター・ホールへと案内する。

 男は、アングロ・ダッチ石油会長、フィリップ・ウォード卿(Sir Philip Ward)であった。英国のシェフィールド大学で地球物理学を修め、入社後は、地震探査専門家として14年間働いた。その後、ナイジェリア現地法人のトップや企画広報部門のディレクター、探鉱・生産部門の総責任者を経て、2年前に会長に就任した。

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「第9章  雪の紫禁城(2)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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