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「究極のインサイダー取引」を阻止せよ

2007年2月19日(月)

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 バレンタインデーの2月14日、歯磨き製品大手のサンスターがMBO(経営陣による企業買収)を実施すると発表した。ワールド、ポッカコーポレーション、すかいらーく、そして「牛角」のレックス・ホールディングスに続き、また1つ馴染みの消費者ブランドが株式市場から去ることになる。M&A(企業の合併・買収)仲介のレコフの調査によると、2006年に公表されたMBO案件は前年比で13件増の80件、買収金額ベースでは6875億円だった。

 株式の非公開化は、資本市場からの短期の利益プレッシャーから解放され、中長期的な成長のために必要な事業再編や研究開発・設備投資を遂行できることが利点であると説明されることが多い。今回のサンスターのケースでも、このような説明が行われている。

 他方で、経営者が自ら買い手に回るMBOは「究極のインサイダー取引」と表現されることがあるように、重大な問題をはらんでいることが指摘されている。株主の受託者として株主価値を最大化する義務がある経営者自身が会社の買い手に回るMBOのケースでは、事業の実態を知り尽くしているがために、できるだけ安値で買収しようとするのではないかと見られている。株主価値の最大化に努める経営者が、市場価値を低くしようと行動するというのは利益相反に当たるとの問題が生じるのだ。

MBOは違法?

 このようなMBOの利益相反問題について、最近になって欧米の主要メディアで議論が交わされている。口火を切ったのは、2006年9月3日、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるベン・スタイン氏の記事「MBOを違法化せよ(“On Buyouts, There Ought to Be a Law”)」である。

 スタイン氏は、前述の利益相反に加えて以下を理由に、そもそもMBOは違法と見なされるべきであるとの主張を展開した。

 (1)経営陣は、MBOで会社の資産を割安で買い取り、売却や再上場を通じて利益を上げることを目的としている。株主の利益よりも私腹を肥やすことを優先させる行為は、株主への信認義務に違反する
 
 (2)通常、MBOでは経営陣は投資ファンドと共同で買収することが多く、その際に手を組むファンドに対しては「資産を割安で買って高い投資利回りが得られる」という旨の事業計画を提出する。だがこうした「重要事実」が一般株主に開示されることはなく、そのような状況で買収することは、ディスクロージャー(情報開示)の規制上、大きな問題がある

 (3)経営陣が、企業価値に影響を与える様々な経営情報を知りながら株式を買うことは、インサイダー取引の疑いがある

 (4)投資銀行が発行するフェアネスレター(価格の適正に関する意見書)も、経営陣の指示通りに作成されることが多いため、当てにならない

 スタイン氏が自らの主張を掲載するや、ファンドなどの関係者は、一斉に反論を展開した。スタイン氏の主張がMBOを一切違法と見なすようなものであるなら、それは受け入れにくいが、上記の4点は本質を突いた指摘であることには間違いがない。

スキャンダルの可能性も

 次に、2007年2月5日付けの英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙では、「新たなインサイダースキャンダルに目を覚ませ(“Sleepwalking into a new insider scandal”)」という記事で、MBOの利益相反問題をエンロン事件と並列に掲げ、新たな金融スキャンダルに発展する可能性があると論じた。

 例えば、取引総額316億ドル(3兆7920億円、1ドル=120円と換算。以下同じ)で史上最大級のバイアウトとなった病院チェーン最大手のHCAや、同じく220億ドル(2兆6400億円)に達したパイプライン大手キンダー・モーガンの非公開化の案件についてだ。両社のディスクロージャー資料から、いずれも当初は会社側の財務アドバイザーであった投資銀行が、社内の自己投資部門を紹介して経営陣と共に買い手側に回り、他の買い手候補を募るオークションを開催することもなくMBOが成立したことを指摘している。

 もっとも、これらの案件でも形式的には独立した社外取締役によって構成される特別委員会が設置され、その勧告を受けて買収提案価格は5~8%ほど引き上げられていることを指摘している。「すべてのMBOに問題があるわけではない」と留保している点で、スタイン氏の記事に比べるとトーンは弱まっている。

 FTの記事を受けて翌2月6日、エコノミスト誌のオンライン版が「プライベートエクイティは公開企業にとって悪い取引ではない(“Private equity pays well for public companies”)」という内容の記事を掲載した。

 「昨今のプライベートエクイティ批判は、いささかヒステリーじみている」との書き出しで始まるこの記事は、投資ファンドが経営陣に対して厳しく経営を監視していることや、ファンド間の競争によって買収価格がつり上がっていることなどを掲げる。

 そして、「資本主義システムの最も優れた点の1つは、利益相反を処理する効果的なメカニズムを構築できることである」と主張し、「MBOに反対する株主はTOB(株式公開買い付け)に応じなければいいだけのこと」として、前述のような批判に反論している。

オーナー経営者に立ち向かう株主たち

 このような問題意識の高まりも背景にあるのか、米国では最近になって、オーナー経営者が主導するMBOに対して、株主が反旗を翻し、買収提案に反対する動きが出ている。

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「「究極のインサイダー取引」を阻止せよ」の著者

岩瀬 大輔

岩瀬 大輔(いわせ・だいすけ)

ライフネット生命保険社長兼COO

1976年埼玉県生まれ。98年に東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年6月より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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