米国の会計士にとっては冬から春にかけてが1年で最も忙しい時期だ。多くの会社は12月決算なので、年度の決算発表は2月から3月に集中する。我々監査に携わる会計士は企業が作成した関連資料などを基に、経理処理にミスや不正がないかチェックする。私もここ数週間、休日返上で担当企業に詰めているといった状況だ。
会計監査は会計士の社会的任務そのものと言える重要な業務だが、3年前からさらに重要な責任が課された。日本でも今、話題になっている内部統制の監査だ。内部統制をおおざっぱに説明すると、「会社の情報を、外部に正確に伝達するための仕組み」のこと。現在米国上場企業に対しては「財務諸表の信頼性」と「内部統制の有効性」の2本立ての監査が実施されているわけである。
会計士が内部統制にまで目を配るようになったのは、2001〜02年にエンロン、ワールドコム、タイコ・インターナショナルといった企業が、世界中の注目を浴びるような不正会計事件を起こしたのがきっかけだ。
株式市場を大きく揺るがしたこれらの不正会計事件は、様々な問題を露呈させた。会計監査人と企業との癒着、アナリストの怠慢、経営者の暴走を止められなかった取締役会、会計処理基準が未整備だったSPE(特別目的会社)取引、株価に依存しすぎた経営陣の報酬制度――とその原因は複雑に絡まっている。
こうした問題に対処するため、米国は2002年にサーベンス・オクスレー(SOX)法という新制度を構築した。SOX法は、正式には「上場企業会計改革および投資家保護法(Public Company Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002)」と言うように、株式市場を舞台にした資本主義の歪みを是正するために生まれた法律だ。
昨年後半から高まってきた見直しの声
このようにSOX法は、不正会計で崩れかけた米資本市場の威信を取り戻すために誕生したのだが、施行から5年目を迎えようとする今、揺り戻しの渦に巻き込まれようとしている。今年1月、「ニューヨークと米国がグローバル資本市場においてリーダーシップを維持するには(Sustaining New York's and the US'Global Financial Services Leadership)」という報告書が公表された。
この報告書はニューヨーク証券取引所の弱体化を危惧するマイケル・ブルームバーグ・ニューヨーク市長とチャールズ・シューマー上院議員がコンサルティング会社のマッキンゼーに依頼して作成されたものだ。この中で、米国資本市場の過剰規制と訴訟制度が資本市場の競争力を低くしているとの主張とともに、対策の1つとしてSOX法の緩和が取り上げられた。
こうした声は昨年から実業界を中心に高まっている。グレン・ハバード元米大統領経済諮問委員会委員長を筆頭に産業界や資本市場関係者の有識者で構成する「市場規制に関する委員会(Committee on Capital Markets Regulation)」が、2006年11月30日にまとめた報告書でも、米国の証券取引所の地位低下を取り上げ、その要因にSOX法404条が影響しているという見解が記載された。
「市場規制に関する委員会」の報告書によると、1990年代後半には、本国以外で行われるIPO(株式新規公開)の48%について、ニューヨーク証券取引所など米国内の証券取引所で行われていたが、2005年には6%、2006年は9月までで8%に落ちこんだ。一方、ロンドン証券取引所は過去3年間に5%から25%に上昇している。また、2005年に行われた公募額で上位25のIPOのうち、24件は米国外で実施され、2006年は11月時点で10件中9件が米国外だった。
こうした状況は、米国外の証券市場が力をつけているという以外に、米資本市場の過剰な規制が原因と報告書は記載しており、SEC(米証券取引委員会)による監督行政の改善と、SOX法404条の運用を緩めるべきとの意見が述べられている。
20年の禁固刑、500万ドルの罰金
ここで取り上げられたSOX法404条とは、日本でも昨年頃から話題に上ることが多くなった「経営者による内部統制の評価」に関する規定のことだ。404条では、経営者に対し、会計年度末の財務報告に不正が起きないように組織的な防止策(内部統制)が働いているのかの評価結果を年次報告書に開示することを求めている。また経営者が内部統制の評価を適正に行っているかをチェックするため、会計監査人が監査を実施することを課した。
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