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第10章 ガスプロムの影(2)

2007年3月5日(月)

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 6月上旬――

イラスト 初夏のロンドンは、爽やかな風に街路樹のスズカケの若葉がそよいでいた。金沢は、ルート142番のバスに揺られていた。赤い2階建てバスである。乗客は英国系、東欧系、インド系、アラブ系、日本人など様々。ロンドンは、欧州で最もコスモポリタンな街だ。

 バンク駅付近からは、通りの両側に、ポートランド石(石灰岩の一種)で造られた重厚なビルが建ち並び、その間に、洒落たデザインの真新しいビルが建っている。

 ホルボーン・サークルをすぎると、通りは急ににぎやかになる。13世紀から法律家たちが移り住んだ法曹街で、古めかしいパブ、洋服店、葉巻屋、ワインショップ、スターバックスなどと一緒に、弁護士事務所、法律専門書店、裁判官用の鬘(かつら)屋などが並んでいる。

 (そろそろだな……)

 金沢は席を立った。1階の床から2階の天井まで伸びたポールにつかまりながら、車両後方の階段を降りる。腰に集金用のバッグと、銀色の切符発券機を持った黒人の車掌が立っていた。

 バスは後方にドアがない「ルートマスター」と呼ばれる古い型。バス停には停まるが、バスが信号待ちをしていたりすると、人々はかまわず乗り降りする。乗降口に立つと、足元の数十センチ下で、舗装道路の灰色の表面が後方に流れてゆく。

 バスのスピードが鈍ったとき、金沢は、えいやっ、と飛び降りた。若干緊張したが、無事着地。うしろのほうからブラックキャブが迫ってきたので、慌てて歩道へ逃げた。

 英国五井商事は、1年前にシティと歓楽街ウェストエンドの中間に位置するホルボーンに引っ越した。黒い鉄骨とガラスのモダンな9階建てのビルである。一階は広い受付ホールで、地下鉄の改札口のような銀色のゲートが4つあり、その先がエレベーター・ホールになっている。 

 サハリンBの財務委員会が、7階にある大会議室で開かれていた。

 「……ECGD(英国の輸出信用)と米輸銀の額は、当然のことですが、両国の業者との契約額から自動的に決まってくるものです」
  会議用長テーブルの端に立った若いイギリス人の男がいった。

 サハリンBのファイナンシャル・アドバイザーを務める投資銀行CSFA(CSファースト・アトランティック)のアソシエイト。オックスフォード大学出らしい坊ちゃん顔に、プライドの高さをうっすらと漂わせている。壁のスクリーンに、第2フェーズのファイナンス内訳表が映し出されていた。

 プロジェクト・コストの見直しが行なわれ、総額は当初見込みより15億ドル多い、100億円ドル(約1兆2000億円)になった。資金調達は、国際協力銀行から30億ドル、民間銀行から10億ドル、EBRD(欧州復興開発銀行)から4億ドル、ECGDの保険付民間銀行融資で6億5000万ドル、米輸銀保証付民間銀行融資で2億5000万ドル、スポンサー3社からの出資が53億ドルの予定である。

 デット・エクイティ・レシオ(債務と出資の比率)は、ほぼ1対1。金融機関が、ロシアというカントリー・リスクの高い国に融資しやすいよう、クッションになるスポンサー出資部分を多くしてある。なお、資金計画は今後の交渉などで、多少変化することもありうる。

「EBRDは4億ドルか……」

 アングロ・ダッチ石油のイアン・ジョンストンが呟く。いつも人を食ったような顔をした長身のイギリス人。

 「彼らはJBIC(国際協力銀行)に、相当感謝してるだろうね」
 と隣りの金沢。

 サハリンBは超大型案件で、スポンサー3社も一流企業という、格(プレスティージ)の高いプロジェクトである。参加金融機関にとって大きな実績になる。

 「アメリカン(米輸銀)も入ったから、政治力は十分なんだけどなあ」
 ジョンストンはやれやれといった顔。

 アングロ・ダッチ石油は、第1フェーズのときに、EBRDの融資は金利が高く、融資できる金額も少なく、ローン契約作成にあたって理屈ばっかり捏ねるので、借りる必要はないと主張した。

 しかし、最大の融資機関である国際協力銀行が、何かあったとき自分たちだけではロシア政府と交渉するのが大変なので、是非EBRDを入れてくれといってきた。同行の現・理事の1人が当時、サハリンBを担当する資源金融部長を務めており、わざわざロンドンまでやってきて、アングロ・ダッチ石油の幹部に申し入れた。

 「EBRDじゃ、このプロジェクトで、クビがつながった連中も結構多いだろうな」

 「そうだろうね」
 と金沢。

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「第10章 ガスプロムの影(2)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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