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今年に入って、ワインの愛好家にはあまりうれしくないニュースが流れた。外国ワインの輸入企業が、欧州産ワインの値上げを発表した。ほとんどは数%の値上げのようだが、メーカーによってはフランス製ワインの一部を3割以上、値上げするケースもあるようだ。
背景にあるのは、ユーロ高である。ユーロは、今年に入って対円で史上最高値を更新し、1ユーロ=150円を超える水準となっていた。銀行間取引からユーロが導入されて早8年。2000年に最安値の1ユーロ=約89円をつけてから、上昇率は実に約70%だ。ユーロの通貨価値の上昇によって、ワインに限らず欧州からの輸入品は価格を上げざるを得ないというのが現状だ。対ドルでも、1ユーロ=1.32ドルと2004年の最高値の水準に再び近づこうとしている。
こうしたニュースが増えた最近でこそ、存在感を増しているものの、日本のビジネスシーンでは、総じてユーロへの関心があまり高くない。ある出版社との書籍執筆の打ち合わせで「ユーロをテーマにしたい」と提案したが、担当編集者からは「宿輪さん、日本では、ユーロの本は売れないんですよ。読者に関心がありませんからね」と言われる始末だ。
ユーロへの関心が高くないのは、仕方のない話である。戦後、一貫して世界の基軸通貨として君臨してきたのは“ドル”だからだ。ドルの動向だけ見ていれば、ビジネスを進めてこられたわけだから、まだ導入されて10年に満たないユーロに強い関心を持てという方が無理な話だろう。
だが、興味がないと言われても、重要であれば論じたくなるのが「逆張り経済論」の逆張りたるゆえんである。今回の宿輪ゼミのテーマは「ユーロ」だ。ここにきて、欧州各国を相手に貿易する企業にとっては、ユーロは無視できない通貨になっている。そればかりか、実は現在の基軸通貨であるドルの優位性を脅かすまでに存在感を増しているのだ。私は、今が第2次世界大戦後にポンドからドルに基軸通貨が移った時と同じような金融の大きな潮目だと見ている。今回は、基軸通貨への道を着実に歩むユーロの今を探っていこう。
逆転しつつあるドルとユーロの立場
よく使われる「基軸通貨」という言葉には、実は明確な定義がない。国際経済学でも、「国際通貨のうち、その主要なもの」としているだけだ。様々な考え方はあるが、基軸通貨とは世界的に最も人気がある通貨、つまり世界の様々な場所で一番使われている、持たれている通貨ということである。
ドルは、現在米国内での通貨という役割だけでなく、民間による国を越えた資本取引(投資)や、貿易の銀行間取引の決済などに多く使われている。多くの国(中央銀行)が、為替介入などに使う外貨資産として保有する通貨でもある。売り上げがナンバーワンであることは、その商品の人気の証明。これと同じように、ドルは通貨では一番人気の商品とも言え、だからこそ基軸通貨と呼ばれるわけだ。
だが、この数十年間、多くの場面で一番だったドルの立場がここにきて大きく変わりつつある。様々な場面でユーロとの逆転現象が起きているのだ。
まず、通貨の生産量(または売り上げ)に当たる「紙幣の発行量(流通量)」。これは、その通貨の信用(強さ)に直結する。基本的には多ければ多いほど、人気の高い通貨であることを示すからだ。
市中に出回るユーロ紙幣は、2006年末に約6300億ユーロ(約97兆円、1ユーロ=155円換算)に達した。これはドル換算で約8300億ドルである。同じ時期に流通していたドル紙幣は7800億ドル(約90兆円、1ドル=115円換算)だったから、500億ドルほど上回ったことになる。