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Vol .1 arbitrage
これが悪いことなら、アナタもワタシも大悪人

2007年4月20日(金)

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 金融関係の本を翻訳していてよく遭遇する単語に「arbitrage」がある。「裁定取引」とか、そのまま「アービトラージ」と 訳すことが多い。プロっぽく語りたい人は低い声で短く「アーブ(arb)」と言えばいい。

 「今日の引けの上げはなに?」「アーブの買い」といったように。 アーブは裁定取引自体の意味にも裁定取引をする連中の意味にも使える。

 数ある金融取引の中でも、裁定取引ほど評判の芳しくないものってあまりない。1990年代以降、株価の暴落や金融危機などが起こるたびに責任を押しつけられる悪役としてすっかりお馴染みになってしまった。

 そういえば、この「アービトラージ」という言葉について、ウォーレン・バフェットが皮肉っぽいことを書いている。

Some People might call this scalping: it won't surprise you that practitioners opted for the French term, arbitrage.
(Lawrence A. Cunningham『The Essays of Warren Buffett(邦題:バフェットからの手紙)』

もとはスキャルピング

 これ(裁定取引)をスキャルピング(利ざや稼ぎ)呼ばわりする人もいる。「スキャルピング」とは、頭の皮を剥ぐこと、転じてわずかな利ざやを狙ってすばしっこく売り買いすることで、昔から金融業界ではバカにした表現だった(日常言語でscalperといえばダフ屋だ)。それを嫌がった裁定取引業者たちが、自分たちの仕事をおフランス風に「アービトラージ」と呼ぶようになったというのだ。

 アメリカ人が「フランス語」といったら何か汚い言葉を指すことが時々あるから、あんまり事態は改善しちゃいないと思うのだけれど。たとえば「Fxxx you, ah, sorry for my French」なんて調子だ。きっとフランス人のほうも汚いことを言ったら「お前アメリカ人だろ」「いえ違います。ワタシあんなんじゃありません」なんて言い合うんじゃないだろうか。

 もちろん、呼び方を変えたからといって、裁定取引の評判が良くなったりはしない。1980年代、米国の政治家には裁定取引業者のことをゴキブリ呼ばわりして毛嫌いしていたやつらもいたと経済学者のマートン・ミラーが書いている。

 1990年代の前半には日本でも株価指数裁定取引が株価暴落の元凶であるという主張がおおっぴらになされた。1998年には、裁定取引の最高峰とみなされていたロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が金融市場を道連れにデフォルト(債務不履行)しそうになり、日本の株式市場も連日下落した。

なんか「してやられた」って感じ

 裁定取引には「制度をうまく利用したり、他人の行動に便乗したりして利益を上げること」という面がある。たとえば、市場参加者たちが株価指数現物や金利に比べて割高な水準で株価指数先物を取引しているのを利用して、資金の借り入れ、現物の買い、先物の売りを同時に行ってリスクをとらずに利益を上げるのが株価指数裁定(index arbitrage)だ。裁定取引業者以外の市場参加者は、なんだか「してやられた」っていう肌触りを感じるんだろう。

 金融業界で裁定取引をする連中に対するそれ以外の連中の思いには複雑なところがあるようだ。裁定取引をやっている人たちは典型的に数量分析派で、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)なんて見向きもせず、古典的な投資家とは話も通じないことがよくある。大体はハードサイエンスの博士号を持っていたりという意味での高学歴だ。日本でも「理系」って言葉にはいろんなニュアンスが含まれているでしょう。だから、そんな「理系」のプレーヤーたちが大損したときに「その他大勢」が最初に見せる反応は「ざまあみろ」だったりする。

 しかし、裁定取引はべつに悪いものじゃない。何かがあるべき価格とは異なった価格で取引されているとき、安いほうを買い、高いほうを売って価格の差を利益としてかすめ取ることだから、裁定取引が行われなければ、誰かが不当に安い価格で自分の持っているものを売らされ、また誰かが不当に高い価格で自分のほしいものを買わされるという状態が続くことになる。つまり、裁定取引は経済の中で、そうした価格の歪みを正すという重要な役割を果たしているのだ。

同じものが違う価格で売られている

 アービトラージという英語はいろいろな意味で幅広く使われているけれど、一番狭い意味では、「同じもの」あるいは「ほとんど同じもの」が異なる価格で取引されているとき、安いほうで買うと同時に高いほうで売る取引戦略のことだ。僕には債券トレーダーをやっている友だちがいる。彼が仕事でやっていることのひとつがこの手のアービトラージだ。

 一方で債券を買い、他方で買った債券とほとんど同じ債券を売って、両者の価格の差を利益として得る取引戦略で、これは無リスク裁定(riskless arbitrage)とも呼ばれる。ファイナンスの教科書、とくにデリバティブ(金融派生商品)周辺の教科書なんかに出てくるのはこれだ。それ以外にも、「アービトラージ」という言葉には次のような使い方がある。

 以前、この債券トレーダーをしている友だちが家を買ったといって、勝ち誇って「government arbitrageって楽しいなあ」というメールをよこした。彼はアメリカに住んでいるのだが、アメリカでは家をローンで買うとローン金利の分だけ税金が安く済む。つまり、ローンを組んで税制の「さや」を抜くことをgovernment arbitrageと呼んでいるのだ。

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