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第11章 遭難(2)

2007年4月2日(月)

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 8月23日、土曜日――

 東京は、最高気温が34.1度に達する真夏日だった。

 金沢は、妻と中学3年生の娘が新宿に買い物に行くのに付き合った。父親の役割は、もっぱらドライバーと財布代わりだ。半日、丸井や伊勢丹、ルミネなどを巡り、デパート地下の惣菜売り場で買い物をした。

 夕方帰宅し、やれやれと思いながら、ビールの栓を抜いた。

 テレビを点けると、NHKのニュースをやっていた。

 「……サハリン州の知事らを乗せたヘリコプターが行方不明になっていましたが、今日、墜落している機体の一部が見つかり、知事は死亡したことが確認されました」

 口の周りに泡を付けたまま、視線が画面に釘付けになった。

 「……ロシア非常事態省などが捜索を続けていたところ、今日、ペトロパブロフスク・カムチャツキーから南西におよそ115キロの山中で、ヘリコプターの機体の一部が見つかり、ファルフトディノフ知事らの遺体も確認されたということです。知事は53歳で……」

(やはり駄目だったのか……!)

 立ち上がり、自分の部屋に向かう。

 パソコンを立ち上げ、インターネットで英文のニュースをチェックする。

 インタファクス通信や英国のBBCなどが知事の死亡を報じていた。機体の残骸が発見されたのは、現地時間で今日の午後3時40分。場所は、北緯52度35分、東経157度10分。カムチャツカ半島の南部である。

 金沢は、サハリン・プロジェクト部長の自宅に電話した。

 「俺も、今さっき知ったところだ。サハリン・リソーシズから連絡があった」
 部長は、呻(うめ)くようにいった。

 「20人、全員死亡だそうだ」

 17人がサハリン州関係者、3人が乗組員である。

 「どういう状況だったんです?」

 「山の斜面の林の中に落ちたらしい。機体は燃えてなくて、遺体が周囲60~70メートルの範囲に散らばってたそうだ。……墜落したときまだ生きてて、這い出したのかもしれんな」

 「知事は?」

 「知事の遺体は、ヘリの中に残ってたそうだ」

 「そうですか……」

 「今日は、もう暗いんで、明日、遺体をペトロパブロまで移送するらしい。数日以内にユジノで葬儀をやるだろうから、フライトを3人分押さえといてくれ」

 「わかりました」

 サハリン・リソーシズ社は、サハリン航空のアントノフ24型機を定期チャーターし、函館・ユジノサハリンスク間で、社員や家族の移動に使っている。

 「知事が死んで、プロジェクトに何か影響が出ますかね?」

 「大きくは出ないだろう。サハリン州でこのプロジェクトに反対する人間はいないさ」

 「そうでしょうね」

 「ただ、ファルフトディノフほどの実力者はそういないから、地元の税関や、環境NGOに対して、今までみたいに抑えが利かなくなるかもなあ」

 「そうかもしれませんね」

 「それにしてもなあ……」
 部長がやるせない声を出した。

 「気象条件の悪いときに、無理して飛んだりするから……まったく……ワーカホリックすぎたんだよ」

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「第11章 遭難(2)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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