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第12章 コールオプション(1)

2007年4月23日(月)

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 2004年1月――

 常夏のシンガポールでは、強い日差しが高層ビル群や海に照りつけていた。

 チェン・ジウリンは、マラッカ海峡に近いオフィス&ショッピング街「サンテック・シティ」にあるCAO(中国航油料)の会議室で、トレーダーたちとテーブルを囲んでいた。

 「……ミスター・ジウリン、やはりここは損切りしたほうがいいんじゃないだろうか」

 大柄なオーストラリア人主任トレーダーが、遠慮がちな口調でいった。

 「ふん……」

 テーブルの中央にすわったジウリンが、片方の眉をぴくりと動かす。

 手元の資料に視線を落とし、ページを繰る。CAOが保有している現物とデリバティブのポートフォリオであった。手持ちの現物でカバーできないケロシン(ジェット燃料の主原料)のコールオプションが問題になっていた。

 昨年3月20日のイラク戦争開戦直前に42ドル35セントの高値を付けたケロシンは、開戦2~3日前から一本調子で下げ、4月7日には26ドル13セントまで下落した。

 その後、5~6月は27~28ドルで推移したが、7月中旬頃から逆にじりじりと上げ始め、10月には35ドルに到達。年が明けると間もなく41ドル台を付け、開戦前の水準に戻った。

 そのため、CAOが売ったケロシンのコールオプションが「イン・ザ・マネー」(オプションを行使すれば利益が出る状態)になり、約300万ドルの損失が発生していた。

 「相場の見通しはどうなんだ?」
 禿げ上がった丸顔のジウリンが、顎をしゃくった。

 「は……おそらく、この高値はしばらく続くのではないかと思います」
 主任トレーダーが答えた。

 テーブルを囲んだ8人のトレーダーが、2人のやり取りを見守っていた。

 「しばらくというのは、どれくらいの期間だ?」

 「まあ、2~3ヶ月かと……」

 「へっ!」
 ジウリンは馬鹿にしたように顔を歪めた。

 「そんなことは誰でもいえるよ。俺が聞きたいのはそんな月並みなコメントじゃない」

 「……」

 「いいか、俺の見たところ、この相場の上げには理由がない」
ジウリンは、テーブルを囲んだトレーダーたちを見回した。

 「だから、いずれ下がる。それが2ヵ月後になるか、3ヵ月後になるかはわからん。しかし、1年も続くことはない」

 ジウリンの顔は、一度も相場の見通しを外したことがないという自信と傲慢さに溢れていた。

 「みんなは、どう思うんだ?」
 ジウリンが訊いた。

 「わたしも、相場は近いうちに下がると思います」
 中国系の男がいった。

 「わたしも同じ意見です」
 とインド人の男。

 「我々の見解は一致したようだな」
 ジウリンは、満足そうな笑みを浮かべた。

 「では、ケロのオプションは、損切りしないで処理する。やりかたを考えて、一両日中に俺に報告してくれ」

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「第12章 コールオプション(1)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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