「ちょっと“危ない”金融英語」

Vol. 3 leverage
間違わないなら、借金したっていいじゃない

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2007年5月11日(金)

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 Leverageとはもともと梃子(てこ)のことだ。アルキメデスが、十分な足場さえくれれば地球だって持ち上げてみせようと言ったときに頭に思い描いていたであろう、あの梃子である。金融の文脈で使うleverageもそんな意味だ。

 たとえば、企業に負債があるとき、負債比率=負債の自己資本に対する比率をleverageという。また、資産運用、特に「ファンド」系の資産運用で、借り入れを行って純資産より大きな資金を投資したり、デリバティブを使って実質的に借り入れを行っているのと同じ効果を出したりすることも、やはりleverageを使うと表現する。実はこれはアメリカ語で、イギリスへいくとギアリング(gearing)と表現されていることもある。

自分のカネでも他人のカネでも結果は同じ

 10年を超える不況が続いていたころには、借金漬けの企業や人(それに、資金を提供する金融機関)がなんだか悪いことをしているみたいな言い方をされたけれど、それは借金がいけないわけじゃなくてきっと事業が失敗したり、身の丈を超える生活をしていることがよくない(かもしれない)だけだ。

 企業にせよ資産運用にせよ、レバレッジは何かを行うときに同じ力(自己資金や自己資本)を数倍に活用するための手段なので、それ自体に善悪や是非なんかない。同じ力や資金を使って得られる結果(利益もしくは損失)が数倍になるだけだ。

 レバレッジには是も非もないのを証明したのはフランコ・モジリアーニとマートン・ミラー(略してMMと呼ばれる。企業財務のテキストの何冊かに1冊は、MMと書いた後に「チョコレートのことじゃないよ」という使い古された一言が書いてあったりする)という2人の学者だ。彼らはそのことを説明するのに、裁定取引の議論を使っている。

 ある資産を保有するのに必要な資金を、すべて自己資金でまかなっても、一部(あるいは、なんなら全部)を借入金でまかなっても、その資産の価値が変わるわけじゃない。企業が事業活動を行うのに必要な資金を全額自己資本でまかなおうが、一部を借入金でまかなおうが、事業で得られる売上高や売上原価、営業費用などに違いがあるわけでも、企業が持つ資産の価値、そして事業の価値に違いが出るわけでもない。それなら負債の有無と企業の価値(したがって株価)には何の関係もないはずだ。

ピッツァを6枚に切ると値打ちが上がる?

理論的な証明のほかに、レバレッジ自体に是非も善悪もないことを説明するのによく使われるのが、ヤンキースの元監督として有名なヨギ・ベラのコメントだ。

注: この人は天然ぼけキャラで、

Nobody goes there anymore, it's too crowded!
「あそこは混みすぎだからもう誰も行かないよ」だの

It ain't over till it's over
「終わるまでは終わりじゃないぞ」だの、

 あれこれとムチャクチャなことをたくさん言っている。僕はあんまり知らないけど、ナガシマさんとおっしゃる方が近いセンらしい。

 「ヨギ語(Yogism)」なんて言葉まである。そればかりか、みんながヘンな発言をでっち上げて、それをオレの発言だってことにしてしまっている、という彼自身の発言さえ“I never said half the things I said”「オレはオレが言ったことの半分も言っちゃいないよ」とYogismの1つに数えられてしまっている。「ゲーテはすべてのことを言った」というのと同じデンで、なんだかヘンな言い回しや矛盾の入った一言を思いつくと、みんなヨギ・ベラが言ったってことにしてしまうんでしょうね。

You better cut the pizza in four pieces because I'm not hungry enough to eat six.
「ピッツァは4つに切ってくれよ。6切れ食べられるほど、おなかが空いちゃいないんだ」

 ハァ?

 4つに切ろうが6つに切ろうが、1枚全部食べるんならおんなじだろうがよ、そう思った人はもちろん、同じ事業資産で同じ事業内容の会社なら、負債がどれだけあろうが企業価値は変わらないと言ったら、うなずいてくれますよね?

 同じ大きさのピッツァ1枚なら、どんな切り方をしようが全体の大きさは変わらないのと同じように、会社だって同じ事業資産、同じ事業内容、将来ずっと同じ業績なら、企業全体の価値も同じなのだ。企業価値が変わらないなら、たとえば株価だって変わらない。

 でも、実際にピッツァ屋に行ってみると、この話はちょっと違うんじゃないかと気づく。たとえばペッパローニのピッツァをまるまる1枚買うのと、1枚を8切れぐらいに切り分けたものを8枚買うのとでは、そりゃ大きさは変わらないけれど、まるまる1枚買うほうが値段は安かったりする。

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著者プロフィール

望月 衛(もちづき・まもる)

ベストセラー『ヤバい経済学』(東洋経済新報社)をはじめ、金融・経済関連書を趣味で翻訳する。運用会社勤務。京都大学経済学部卒業。コロンビア大学ビジネススクール修了。証券会社を経て、現在、運用会社でファンドやデリバティブ系商品の評価、分析およびリスク管理に従事。CFA、CIIA。訳書に『アービトラージ入門』『商品先物の実話と神話』『実験経済学入門』(日経BP社)、『ヘッジホッグ――アブない金融錬金術師たち』『大投資家ジム・ロジャーズが語る 商品の時代』(日本経済新聞社)、『天才数学者、株にハマる』(ダイヤモンド社)、『クレジット・デリバティブ』(東洋経済新報社)など。



このコラムについて

ちょっと“危ない”金融英語

ウォール街の投資銀行家たちが口にした言葉が、やがて世界中のマーケットで標準語になる。彼らの言葉が分からなければ、カモにされてスッテンテンになるのがオチだ。でもご安心あれ。金融機関に勤める傍ら、ビジネス書翻訳を手がける筆者が、知っておかないとちょっとアブない金融英語の常識・非常識を、プロの現場の話題を織り交ぜながら紹介します。これを読めば、ファイナンスと英語の知識を一度に入手できます。

イラスト上:今竹 智

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