「ちょっと“危ない”金融英語」

Vol. 4 Volatility
明日と昨日は違うんだけど、で、どうする?

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2007年5月18日(金)

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 「volatility」という言葉自体は普通の英単語なのだけれど、たぶん金融業界でしか使わないし、たとえそれ以外で聞くことがあっても、やっぱり金融方面で使っているからこそ使うようになったという程度なんじゃないか。

 たとえば、今世紀の初めぐらいからオプション周辺の考え方は企業経営にも使われるようになっていて、「判断を先延ばしにすること」の価値は、今じゃ「リアルオプション」なんて渋い名前で呼ばれている。そこでも、金融系オプションと同じように、「価値」を決める一番大事な要素の1つが「ボラティリティ」だ。プロっぽく決めたければ低い声で短く「ボル」と……それはいいか。人によっては「ボラ」と言う。それから、カタカナで「ボラティリティ」ではなく「ヴォラティリティ」と書くと嫌われる。なんでか知らないけど。

ボラティリティがリスクっていうのは間違い

 本来、volatilityとは不確実性や変動が大きいことを指す普通の単語で、形容詞はvolatileだ。不確実性なんて別に数字で表さないといけないわけじゃないけれど、こと金融の世界について言えば、(とある業界のプロのおねぇさんたちと同じように)とりあえず何でもお金に換算しないと話が進まない。

 だから不確実性も当然数字で表す。具体的にはリターンの標準偏差が使われる(注: 標準偏差って言うと引いてしまう人がいるんだけど、お受験にかかわった人なら偏差値を計算したことがあるはずだ。偏差値の計算には標準偏差が必要だから、みんな知っているはずだよ。)。

 ボラティリティはリスクの指標として広く使われている。ボラティリティが高ければリスクは高く、低ければリスクは低い。でも、ときどき偉い人がボラティリティをリスクだと思うのはおかしいと言っている。たとえばみんなが大好きなウォーレン・バフェット曰く:

We define risk, using dictionary terms, as “the possibility of loss or injury.” Academics, however, like to define “risk” differently, averring that it is the relative volatility of a stock or a portfolio of stocks ? that is, the volatility as compared to that of a large universe of stocks. Employing databases and statistical skills, these academics compute with precision the “beta” of a stock ? its relative volatility in the past ? and then build arcane investment and capital allocation theories around this calculation. In their hunger for a single statistic to measure risk, however, they forget a fundamental principle: it is better to be approximately right than precisely wrong. (バークシャー・ハザウェイ 1993年アニュアル・レポート)

 「当社でリスクと言えば、辞書に載っているとおり、『損をしたり傷ついたりする可能性』です。でも、学者さんたちが言う『リスク』はこれとは違っています。彼らの言うリスクとは、株や株のポートフォリオの相対的なボラティリティのことです。つまり、たくさんの銘柄の集まりに対する相対的なボラティリティなのです」

 「学者さんたちは、データベースや統計の手法を使って、過去の相対的なボラティリティである『ベータ』を細かいケタまで計算し、それを使って投資や資産配分のごたいそうな理論を造ってくれました。リスクを統計的に1つの指標で測りたいという気持ちが強すぎて、学者さんたちは大事なことを忘れてしまったようです。つまり、完璧に間違ってるよりは、だいたい正しいほうがいいってことです」

「思ったより儲かる」のもリスク

 彼がここで言っていることは2つある。
 (1)ボラティリティでリスクを測るのはおかしい。
 (2)ボラティリティを過去のデータから計算するのはおかしい。

 相手はバフェット先生なんで、僕のような下々には恐れ多くてとても言い返せないけど、思うところぐらいはいくつかある。

 実は、僕は思ったよりも儲かって怒られたことがあるのだ。あるとき、ある株について、ある人(ボスだかお客さんだかだと思ってください)に、「こんなに儲かるんだったら、もっと買っときゃよかったのにな」と言われた。つまり、僕が予想していたよりもその株の価格は大きく上がった。僕もけっこう上がるとは思っていたのだけれど、そんなもんじゃなかった。

 実際の結果にもっと近い、「より正しい」予想をしていれば、もっと儲かったはずだった。人によってはこれを「結果論」と言うし、実際に結果論なんだけれど、機会費用を考えるとやっぱり「思ったよりも儲かること」もリスクだってことだろう。バフェット先生はそんなことないんだろうか。

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著者プロフィール

望月 衛(もちづき・まもる)

ベストセラー『ヤバい経済学』(東洋経済新報社)をはじめ、金融・経済関連書を趣味で翻訳する。運用会社勤務。京都大学経済学部卒業。コロンビア大学ビジネススクール修了。証券会社を経て、現在、運用会社でファンドやデリバティブ系商品の評価、分析およびリスク管理に従事。CFA、CIIA。訳書に『アービトラージ入門』『商品先物の実話と神話』『実験経済学入門』(日経BP社)、『ヘッジホッグ――アブない金融錬金術師たち』『大投資家ジム・ロジャーズが語る 商品の時代』(日本経済新聞社)、『天才数学者、株にハマる』(ダイヤモンド社)、『クレジット・デリバティブ』(東洋経済新報社)など。



このコラムについて

ちょっと“危ない”金融英語

ウォール街の投資銀行家たちが口にした言葉が、やがて世界中のマーケットで標準語になる。彼らの言葉が分からなければ、カモにされてスッテンテンになるのがオチだ。でもご安心あれ。金融機関に勤める傍ら、ビジネス書翻訳を手がける筆者が、知っておかないとちょっとアブない金融英語の常識・非常識を、プロの現場の話題を織り交ぜながら紹介します。これを読めば、ファイナンスと英語の知識を一度に入手できます。

イラスト上:今竹 智

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