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第13章 鯨の葬式(4)

2007年6月25日(月)

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 8月下旬――

 東京は夕方から気温が23度くらいまで下がり、比較的しのぎやすい日であった。

 トーニチ専務の亀岡吾郎は、仕事を終えたあと新橋駅近くの縄暖簾で、腹心の法務部長と日本酒の杯を傾けていた。2人とも背広の上着を脱ぎ、ワイシャツ姿だった。前垂れ精神の商売人に似つかわしい、質素な佇まいの店であった。

 入社以来馬車馬のように働いてきた亀岡であったが、イランの油田開発から撤退せざるを得なくなり、会社もトミタ自動車グループの傘下に入ることになって、多少の時間的余裕ができていた。

 現在の仕事は、トミタ通商との合併に向け、トーニチの米国における不良債権処理を主にやっている。また、イラク情勢を睨みながら、イラクにおける油田の権益獲得について、日本の大手石油会社と話を進めている。

 「……サハリンBがIUCNにコククジラの調査を依頼しましたね」
 亀岡の猪口に熱燗を注ぎながら、法務部長がいった。見た目はソフトだが、亀岡同様したたかな商売人である。

 去る8月26日、サハリン・リソーシズ社は、プロジェクトがコククジラに与える影響に関する調査を、IUCNに委託したと発表した。

 「IWCでもコククジラ保護の決議案が採択されたし、きちんとした対応をしないと、レピュテーションに関わると判断したんだろう」

 白髪をオールバックにした亀岡の顔が、かなり赤らんでいた。もともとアルコールには強くないたちだ。

 「IUCNっていうのは、権威ある団体なんですか?」

 「各国政府や環境NGOも加盟しているし、米国政府とワシントン条約なんかも作った団体だから、誰も文句はつけられんだろう」

 IUCN(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources=国際自然保護連合)は、1948年に設立された世界最大の自然保護機関だ。

 本部はWWFと同じスイスのグランにあり、世界72ヶ国の107の政府機関、743の非政府機関、34の団体が会員になっている。日本の外務省や環境省、WWF、アース・ウィンズなども会員だ。

 「東洋物産と五井商事も思い切ったことやったもんですね。プロジェクトを止めろっていう結論になるかもしれないんでしょ?」

 「可能性はないとはいえんな。……ただ、環境団体のほうも、『プロジェクトを止めろとはいわない。環境に対する影響を最小限にしろ』といういい方をしているところが多いらしいから、そこまではいかないんじゃないか」

 「調査結果はいつ頃出るんですか?」

 「年明けらしいな」

 「一種の賭けですね」

 「まあ、どんなことをいわれるか、気が気じゃないのは確かだろう」
 亀岡は猪口の日本酒をすすった。

 「ところで、今、十文字は何をやってるんです?」
 法務部長が訊いた。

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「第13章 鯨の葬式(4)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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