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第14章 破綻(2)

2007年7月23日(月)

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 9月下旬――

 初秋のロンドンは、街路樹が色づき初めていた。

 秋月修二は、いつも通り、セント・ポール寺院の近くのTERMのオフィスに出社した。

 明るい朝日がオフィスに差し込んでいた。

 「シュウ、ケロがまたかなり上がってるぞ」
 トレーダーたちの横を通りかかると、30歳すぎのギリシア人がいった。

 鼻の下に口髭をたくわえた細面の男であった。

 「そのようだな」
 紺色のジャケットを着た秋月は立ち止まる。

 シンガポール市場の動きは、ロイターから送られてくる数字を携帯電話の画面でチェックしていた。ここ数日間で、ケロシンの価格が5ドル跳ね上がっていた。シンガポールの終値は59ドル22セントで、60ドル台乗せ寸前だ。

 「ドバイ(原油)とのスプレッドが23ドル6セントっていうのは、未曾有の水準だな」
 秋月が驚きを込めていう。

 「この分だとCAOは、ロスが2億ドル以上に膨れ上がってるな」
 口髭のギリシア人は面白そうな顔。

 「連中とは話したか?」

 「今さっきな。……主任トレーダーは、半泣きだったよ」

 「そうだろうな」
 秋月は苦笑した。

 「あっちこっちからマージンコールがかかってるけど、銀行のクレジット・ラインは使い果たして、逆さに振ってもスタンドバイは出ないそうだ」

 「で、連中は、どうするつもりなんだ?」

 マージンコールに対応できなければ、デフォルト(債務不履行)を宣告される。

 「北京の親会社がサポートしてくれる予定だと説明して、デフォルト宣告を待ってもらってるらしい」

 「親会社がサポート? どの程度信憑性がある話なんだ?」

 「よくわからんが……口からでまかせじゃないか」
 ギリシア人は馬鹿にしたような口調。

 「在庫は処分したのか?」

 CAOはケロシンなどの現物の在庫を保有している。それを処分すれば、資金繰りの足しにすることができる。

 「とっくの昔から必要最低限の量でやり繰りしてるそうだ」

 秋月が頷く。

 「シュウ、どうする? そろそろ手仕舞うか?」

 TERMのCAOに対するエクスポージャーは、1億ドルに達していた。

 「まだまだ」
 秋月は首を振った。

 「ロンドンの銀行でのんびりしたところがまだいくつかあるだろ? そこからスタンドバイを取ってやるんだ。……美味しいのはこれからだ」

 CAOは表面的にはまだぴかぴかのシンガポールの上場企業だ。

 「わかった。……ところで、これ見たか?」
 ギリシア人がにやにやしながら、1枚の紙を差し出した。

 秋月が受け取って、視線を落とす。

 CAOのウェッブサイトに掲載されていたシンガポール・エクスチェンジ証券の質問に対する回答であった。

 「『弊社は、SGXの上場基準、とりわけルール703を遵守していることを、再確認致します』、か。……今年最悪の冗談だな」
 秋月が苦笑した。

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「第14章 破綻(2)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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ジェンスン・フアン エヌビディア創設者兼CEO(最高経営責任者)