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第14章 破綻(4)

2007年8月6日(月)

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 10月26日、火曜日――

 五井商事サハリン・プロジェクト部の部長代理、金沢明彦は、ロンドンの「フォー・シーズンズ・ホテル」の朝食の席にいた。普段は、このような贅沢なホテルには泊まらないが、今回は、会社の顧問のお供である。

 金沢は食事を終え、コーヒーを飲みながら、書類を読んでいた。

 レストランは、建物1階の北側の端にある天井の高い空間。大きな窓から、木々が色づき始めたハイドパークが見える。淡いピンク色のクロスをかけたテーブル席が20ほどあり、米国人やインド人旅行者、アラブ人や白人のビジネスマンなどが、朝食をとっていた。

 金沢が読んでいる書類は、先日、東京大手町のJBIC本店で開催された「サハリンB」に関する「環境フォーラム」の議事録だった。約40ページで、会議における全発言が記録されていた。

 融資の貸し手が、プロジェクトが行われる国以外でこの種の公聴会を開くのは、極めて異例だ。背景には、環境保護団体の圧力がある。

 金沢は、白い磁器のカップのコーヒーを口に運び、ページを繰る。

 会議は、JBICの広報室長が司会を務め、前半はフォーラムの進め方、後半は、油の流出問題について話し合われていた。

 フォーラムには誰でも参加することができ、JBICや環境省の職員のほか、海上保安庁、大学の教員、様々なNGOや自然保護に関心がある個人が出席していた。海洋工学専門のコンサルタント、国際開発問題のNGO、イルカ・鯨保護のためのNGO、野鳥保護のNGO、雁の保護のNGO、環境省の外郭団体など、初めて名前を聞く団体も少なくない。

 アース・ウィンズ・ジャパンからは金沢の妹のとし子をはじめ、複数の人間が参加していた。過去、アース・ウィンズは、JBICが環境ガイドラインを作るに当たって、強い影響力を与えた実績があり、今回の会合でも、話し合いの進行方法や、サハリンBプロジェクトに関する意見書を事前に提出していた。

 とし子は、何度か発言していた。いずれもサハリン・リソーシズ社の対応を厳しく批判する内容だった。

 「国際協力銀行さんは、サハリン・リソーシズ社に対して、適切な環境保護をするよう、働きかけを行っていくということを何度かいわれたと思うのですが、それに関して、十分にやっていただきたいと思います。わたしたちも、過去、サハリン・リソーシズ社が日本で開いた会合に何度も出席しましたが、様々な問題点について、本当に満足がいかない回答しか得ておりません。会合自体も、サハリン・リソーシズ社が招待した人だけが出席しているとか、議事録を作成しないとか、本当にオープンでない会合でした」

 「例えば、北海道の漁民の皆さんが、石油とLNGの積み出し施設が作られる南部のアニワ湾での土砂投棄について質問をされた際に、サハリン・リソーシズ社は、土砂投棄に関することはまだ何も決まっていないといいながら、その1ヶ月後に土砂投棄を始めるとか、本当に納得がいかない対応がずっとあります」

 「それから、先日、サハリン・リソーシズ社が契約している浚渫(しゅんせつ)船が、ホルムスク(サハリン島西海岸の港湾都市、旧名・真岡)で燃料の重油を流出する事故を起こし、数キロメートルにわたって海を汚染しました。それに対してサハリン・リソーシズ社は、自分たちはその油流出事故にはまったく責任がないといっているのです。自分たちのプロジェクトを実施するために契約している浚渫船の事故であるにもかかわらずです。今回は小さな浚渫船でしたが、大型タンカーが座礁したような場合は、大変なことになると思います。しかし、サハリン・リソーシズ社は、タンカーの場合も、自分たちには責任がないといっているのです」

 とし子の発言に対して、海上保安庁の出席者が「そうした場合の法的責任は、船主にあります。船主が油の除去その他の費用を負担しなくてはならず、そのために保険にも入っています。ただし、企業の社会的責任として、例えば、日本の石油元売り会社は、石油ターミナルに受け入れる内航船の検船システムを強化したりしています」と述べていた。

 サハリン・リソーシズ社としては、法的に責任のないことまで負担するのは株主の利益を損なうので、簡単にはできない。一方、漁業関係者などから見れば、サハリン・リソーシズ社がこんなところにやって来て、こんなプロジェクトを始めなければ、大規模な油漏れが起きる危険はなかったわけで、事業を始めた張本人が、「わたしは知りません」では、納得がいかない。

 この点に関し、海上保安庁の出席者は、「日本政府がやっている国家備蓄プロジェクトにおいても、タンカーの流出事故は船会社の責任だが、事故の防止や事後対策については、JOGMEC(ジョグメック、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が中心になって真剣に検討しており、事業主が何の責任も負わないというのは、ある意味で非常識だろう」と述べていた。 

 海洋工学のコンサルタントからは、「サハリン・リソーシズ社が作成したEIA(環境影響評価書)では、海が氷結している時には、油が流出しても、氷が油の防護壁になるから重大な事故にはつながらないと書いてあるが、それは間違いで、流氷とともに流れてきて北海道全域に影響を及ぼす可能性がある」という意見が出された。また、EIAの流出油の風化(揮発性成分の蒸発)に関するデータが矛盾していると指摘された。

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「第14章 破綻(4)」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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